研究課題/領域番号 |
16K09693
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
飯島 正博 名古屋大学, 医学系研究科, 寄附講座講師 (40437041)
|
研究分担者 |
川頭 祐一 名古屋大学, 医学部附属病院, 助教 (40569779)
勝野 雅央 名古屋大学, 医学系研究科, 教授 (50402566)
小池 春樹 名古屋大学, 医学系研究科, 准教授 (80378174)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 慢性炎症性脱髄性多発根神経炎 / 多施設共同研究 / 自己抗体 / NOD B7-2ノックアウトモデル / TAG-1ノックアウトモデル / 軸索-髄鞘間相互作用 / 傍ランビエ絞輪 (paranode) |
研究実績の概要 |
緩徐進行性もしくは再発性の経過を有する慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(神経炎)は四肢の進行性の筋力低下をきたす難治性疾患であり、その病態解明ならびに治療法確立は急務とされる。本研究では国内16施設によるコンソーシアム(CIDP-J、事務局は当研究室に設置)を構築し、2016年末までに100例を超える症例登録を達成した。全例について病型や進行様式、筋力やADL評価、電気生理学所見等の臨床情報を集約するとともに、一部については筋萎縮の進行目的の全身筋CTや馬尾や神経根評価のためのMRIなどの画像検査所見についても収集を行った。また各施設の倫理審査を経た後文書で同意を得た症例からは血清・DNA/RNA・髄液といった生体試料を採取し当研究施設内の超低温冷凍庫に凍結保存を完了した。本年度はランビエ絞輪部を標的とする自己抗体(NF155, CNTN1抗体)を検索し、両者がともに類似の表現型を示すことからCIDPの一亜型を形成することを明らかにした。これは今後の診断基準や重症度分類に有用な知見といえる。 また軸索-髄鞘間はランビエ絞輪部近傍を中心に相互連絡の機序を有し、末梢神経系のホメオスターシスに寄与していると考えられている。本研究ではCIDPのモデルマウスとして近年期待されるNOD B7-2ノックアウトマウスを導入し、週齢ごとの病勢やエフェクターの探索を継続している。本マウスは生後20週齢以降より炎症性脱髄を自然発症し、25週齢をピークとして二次性軸索変性が顕在化することが判明した。またその病期におけるエフェクター機序として、CD4もしくはCD8陽性のTリンパ球とマクロファージが初期より病変部神経に出現し脱髄を形成する一方、25週齢以降30週齢頃にはマクロファージの浸潤は消退傾向を示すこと、さらに同時期における軸索変性所見が顕在化するなどの特徴を確認している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前述の通り、100例を超えるCIDP症例の蓄積が完了した。本年度は当初の目的である臨床表現型の多様性を解析することで、典型的CIDPが約半数、そして多巣型、遠位優位型、感覚型が非典型的CIDPの多くを占めること、また局在型と運動型は稀な表現型であることを明らかにした。また自己抗体についてはNF155抗体が全体の約7%、CNTN1抗体が1%程度陽性例が存在することを明らかにした。両抗体陽性例とも若年発症が多くを占め、臨床的特徴としては手指振戦を呈し、失調性歩行を示す例が多いことを明らかにした。またCIDPは通常脳神経症状をきたしにくいとされるが本抗体陽性例は顔面筋群の脱力や嚥下異常をきたすなどの非典型的な症状を有する例が比較的多い結果が示された。髄液検査では200~300㎎/dl以上の顕著な蛋白上昇が特徴的であり、病変部神経の生検所見からは顕著な浮腫、脱髄とともに軸索変性所見がやや目立つことが明らかとなった。本抗体は血清学的にいずれもIgG4サブクラスであることが明らかとなっており、すなわち補体結合能を欠損したIgGサブクラス内でも特異な特徴を有している。電子顕微鏡による観察でも傍ランビエ絞輪部におけるmyelin loopと軸索間の物理的解離を確認しており、IgG4サブクラスを病因とする傷害機序解明に関しては今後の新たな研究テーマとなると考えている。今後は臨床解析を継続しつつDNA/RNAを用いた多型解析等についても検討を予定しており、今年度における進捗状況は良好に達成したと考える。 また動物モデル解析に関しては当初の予定通りTAG-1ノックアウトマウスへの実験的自己免疫性神経炎(EAN)を誘導した軸索障害機序の再現、またNOD B7-2ノックアウトマウスを用いた新規モデルによる脱髄誘導機序に関わるエフェクター機序の解明が完了しつつあり、こちらも予定通り順調に推移している。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は16施設で構成される多施設共同研究による個々の症例の長期経過・予後解析を行う予定である。また今回自己抗体陽性例がCIDPの一亜型を形成する可能性が明らかとなった。本抗体陽性例はファーストライン治療であるIVIgに対し治療抵抗性を示す傾向があることから、治療法選択のためには広く本抗体測定を可能にする必要があると考えられる。今後はより簡便な測定系の条件や測定キットの可能性について民間企業とも議論する機会が得られないか検討したい。またDNAに関しては治療反応性や表現型との相関の有無を一塩基多型をはじめとする解析を予定している。今まで蓄積したTAG-1など傍ランビエ絞輪に分布する分子群のnonsynonymous SNPsとIVIg反応性を踏まえ、軸索‐髄鞘間相互作用に関与する分子群についてはあらためて網羅的解析を行う予定である。 動物モデルに関しては、TAG-1ノックアウト+EAN、NOD B7-2ノックアウトの2系統についてともに人疾患をよく反映した表現型が再現できることから、これらを用いて免疫グロブリン等の治療効果判定と作用機序解析をさらに進める予定である。いままでに免疫グロブリン大量投与によりマクロファージの病変部浸潤が抑制される可能性が示唆されつつある。今後はマクロファージのサブクラス(M1, M2, etc.)まで対象を細分化できるよう準備し、またリンパ球に関してもTh17やTreg系も含めた免疫ネットワークの関りを明らかにする予定である。現在これらに関しては実績のある抗体準備と新たな解析系(フローサイトメトリーによるセルソーターなど)の準備を行っている。さらに動物系自体の改善として、発症時期に応じて抽出した脾臓由来の細胞をエフェクター毎に分離し、通常マウスへ投与することで同様の病態を再現できるかについても検討している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当該年度はCIDPにおける新規の亜型として自己抗体陽性CIDPの臨床検査所見から鑑みた特徴を明らかにした。多施設コンソーシアムであるCIDP-Jで集積した血清を複数の施設で解析し自己抗体測定のための施設間・測定系間のvalidationを行うため、ELISAならびにwestern blottingによる測定系確立を予定した。しかし測定には一定数集積してからの一括解析が効率的であることが当該年度中に判明したため、100例を目標に機器購入等を延期した。すでに2017年1月末までに100検体以上の検体を有しており、また当施設で採取した血清約100例以上が凍結保管されていることから測定に支障はなく、今後次年度に購入および測定を予定している。以上の理由により不確定要素(サンプル収集)によりやむなく機器購入が延期になったものであり、次年度は速やかな購入と測定が可能な状況にある。
|
次年度使用額の使用計画 |
自己抗体測定系の確立に向けて、新たに自己抗体標的ペプチドの人工的作成が必要となる。これは文献上も頻回に記載され、国内外でコンセンサスを得た遺伝子組み換え体を用いて作成する予定である。すでにインキュベーターの購入が完了したため、次年度以降にコンストラクト購入を予定する。 また、動物モデルの解析は本年度に想定以上の進展を認め、免疫グロブリン介入による反応性解析まで進展している。次年度は介入の有無による病変部遺伝子発現の差異を検討するため末梢神経、脊髄を含めた候補遺伝子の発現変動解析を予定する。そのため次年度以降は試薬や機器購入(qPCR装置)のため人件費減額で対応を予定する。さらにこれらの成果を国際学会(peripheral nervous society, スペインならびに米国で開催予定)で報告するため旅費は従来通り計上する。
|