研究課題
HTLV-1の感染者の一部に発症するHTLV-1関連脊髄症(HAM)は、未だ有効な治療法がない難治性疾患である。その主病態は、HTLV-1感染細胞に起因した脊髄の慢性炎症による神経組織傷害と考えられているが、未だ不明な点が多い。 最近、我々の臨床的解析からHAMの脊髄病変部では、浸潤した感染T細胞より産生されるIFNγがアストロサイトからCXCR3のリガンドであるCXCL10産生を刺激し、その脊髄中に高発現したCXCL10はCXCR3陽性細胞(感染CD4+ T細胞、Th1細胞やCD8+ T細胞など)の脊髄への遊走を促し、浸潤したそれらの細胞がIFNγを産生して更なるアストロサイトからのCXCL10産生を刺激するという、IFNγ-CXCL10-CXCR3炎症のポジティブフィードバックループを形成することが炎症の慢性化の主軸となり、HAMの脊髄病巣の形成・維持に重要な役割を果たしているという仮説を提唱した。本研究では、HTLV-1感染に起因した炎症ループを再現し本仮説を検証することにより、HAM病態の形成・維持機構を明らかにすることを目的とする。平成29年度は、昨年度に樹立したアストロサイト特異的CXCL10発現多重免疫不全マウス(NSG/GFAP-CXCL10マウス)にHAM患者末梢血単核球(PBMC)を移植し、HAM患者由来の免疫細胞およびHTLV-1感染細胞を生着させたマウスの表現型解析を行った。その結果、HAM-PBMC移植NSG/GFAP-CXCL10マウスの中枢神経(脳)においてHTLV-1感染細胞の浸潤が確認された。また、脊髄の病理学的解析から、脊髄の血管周囲および実質組織にリンパ球細胞浸潤を認める所見を得た。現在までに、HAM-PBMC移植後、最長12週間の形態および行動観察においては、四肢の腫れ、歩行障害や麻痺などの異常は認められなかった。
2: おおむね順調に進展している
これまでにNSG/GFAP-CXCL10マウスを樹立することに成功し、繁殖維持を進め、HAM-PBMC移植実験を行い表現型の解析、中枢神経へのHTLV-1感染細胞の浸潤の確認、中枢神経系(脳、脊髄)の病理学的解析を実施し、さらに詳細な解析を進行中であるため、進行状況はおおむね順調である。
HAM-PBMC移植NSG/GFAP-CXCL10マウスの形態および行動異常(炎症による四肢の腫れ、歩行障害、麻痺など)について引き続き経過観察を行うと共に、さらに詳細な脊髄の病理組織学的解析を行う。また、HAMの炎症のポジティブフィードバックループを形成に関わるサイトカインおよび各種炎症性サイトカインの産生、HTLV-1感染細胞の機能および動態について免疫・細胞学的解析を実施する。また、これまでのHAM発症に関与する宿主因子のコホート研究から、HAM発 症 促 進 要 因 と してHLA-DRB1*0101を、発 症 抑 制 要 因 と してHLA-A*02が報告されている(Jeffery KJ, PNAS 1999)。しかし、未だHAM発症におけるこれらHLAの影響をin vivoモデルで証明した報告は無い。そこで、HAM発症制御や病態形成におけるHLAの関連性について本マウスを用いて検証を実施するため以下の解析を行う。マウスとHLA-DRB1*0101発現NSG-TgマウスまたはHLA-A*02Tg-NSGマウスを交配し、作出された各マウスを用いてHTLV-1感染マウスを作製し、HTLV-1感染細胞数、IFNγ、CXCL10および各種炎症性サイトカイン濃度変化の解析、HAM様病態の発症について解析する。また、現在、HAM-PBMC移植NSG/GFAP-CXCL10マウスではHAM病態の発症効果が弱いものと予想されるため、発症促進要因HLA-DRB1*0101-NSGマウスとの交配は、目的とするHAM病態モデルの作出を可能とする対応策となると考える。
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http://nanchiken.jp/