タイラーマウス脳脊髄炎ウイルス (TMEV) 感染による脱随疾患モデルは多発性硬化症 (MS) の代表的な疾患モデルである。TMEVは神経系細胞も含め多種の細胞に結し感染するが、認識する受容体は不明のままである。申請者らは、TMEVが免疫グロブリン様受容体であるSiglec-Eに結合することを見出した。そこで本研究においては、TMEV誘導性脱随疾患モデルにおけるSiglec-Eの寄与を追求することにより、多発性硬化症の新たな発症機序の解明と治療標的分子としてのSiglec-Eの可能性を追求することを目的とした。しかしながら、平成29年度研究において、Siglec-E単体では、感染成立には不十分であることが判明した。一方、TMEVは、形質細胞様樹状細胞(pDC)に結合しないことから、脂質構成成分を検討したところ、樹状細胞と全く違う構成を有していることが判明した。そこで平成30年度は、脂質構成成分についてHPLCにより検討を行った。その結果、pDCではガングリオシドGM1の発現が極めて低いこと、さらにガラクトースをガラクトシルセラミドに転移する酵素群が低下していることが判明した。また、pDCには、GM1に結合するコレラトキシンBサブユニット(CTB)が結合せず、一方、DCではTMEVのカプシドタンパクとCTBが共染色されることから、TMEVがGM1に結合することが判明した。これらの結果から、GM1がTMEVの受容体であり、MSのみならずウイルス感染疾患の新たな治療標的分子となることが示唆された。
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