研究課題
本研究はERBB4を介するALS発症機序解明と抗がん剤を含むリン酸化調節剤や下流カスケードの修飾効果を、ALS患者人工多能性幹(iPS)細胞由来神経細胞や神経様細胞で検証する事を目的とする。本年度は、下記の成果を得た。1.ERBB4変異導入神経芽腫SH-SY5Y細胞の解析とErbB4リガンド刺激による局在変化:ERBB4遺伝子の野生型と新規3変異および既報告1変異をC端‐GFP‐ERBB4としてプラスミドを作製、神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞に導入し、発現解析を行った。共焦点レーザー顕微鏡では、野生型と変異型共に細胞質での発現が確認された。一部は、細胞膜に局在していた。リン酸化促進薬NRG1添加後数時間での細胞内局在は大きく変化がないようであった。N端-GFP-EBB4も作製が終了し、今後局在を観察する。2.酸化ストレスによる影響:神経変性疾患は酸化ストレスに関連していることは広く知られており、日本では、活性酸素除去剤エダラボンが保険適応となっている。上記の野生型・変異型ERBB4発現SH-SY5Y細胞に酸化ストレスとしてBSOやその他薬剤を負荷すると、少なくとも一部でERBB4のリン酸化が促進された。3.抗がん剤の神経系細胞に対する毒性の検証:抗がん剤は一般に正常細胞への毒性が懸念されるが、ERBBファミリー蛋白阻害剤を数種使用し、神経様に分化させたSH-SY5Y細胞を用いて、細胞障害度を確認した。その結果、低毒性と高毒性の薬剤が存在した。4.ERBB4変異を有するALS患者iPS細胞の確立および神経への分化誘導:ERBB4変異を有するALS患者の線維芽細胞由来のiPS細胞は2種の変異について確立できた。神経に分化させたが、形態学的に正常細胞と似通っていた。次に、正常対照のiPS細胞から運動ニューロンヘ分化誘導する条件を模索し、成功した。患者細胞で同様に行う予定である。
2: おおむね順調に進展している
ERBB4の細胞内での局在、リン酸化動態が解明されつつあり、酸化ストレスとの関連も明らかになりつつある。ERBB4関連ALS患者細胞由来iPS細胞から神経細胞への分化が成功しており、さらに対照細胞では運動ニューロンに分化させることに成功している。
1.抗がん作用のあるリン酸化阻害剤、脱リン酸化阻害剤、γセクレターゼ阻害剤の効果検証:神経様細胞を用いて、リン酸化修飾薬などの薬剤負荷を行う。ERBBファミリー蛋白のリン酸化阻害作用を有する抗がん剤のほとんどは試薬として入手可能である。リン酸化の保持には脱リン酸化阻害剤を使用する。核内への濃度を増加する目的で、核外輸送阻害剤(leptomycin B)の効果をみる。逆にC端の減少のためにはγセクレターゼ阻害剤を用いる。これらの薬剤を添加し、顕微鏡下での細胞形態検査、さらにErbB4の翻訳後修飾への効果を検証する。2.ERBB4変異を有するALS患者iPS細胞の確立および神経への分化誘導細胞におけるErbB4の動向と薬剤負荷の効果検証:患者および正常iPS細胞由来神経細胞を用いて、ErbB4の動向を、細胞を固定したのちに、細胞の形態、抗ErbB4抗体や抗リン酸化ErbB4抗体で免疫染色によりErbB4の細胞内局在、下流カスケードのシグナル解析を行う。また、細胞内の凝集が生じるか、生じている場合には、p62やVCPに対する抗体でも染色する。また、当該年度の1.に使用した薬剤効果も検証する。③ CRISPR-Cas9システムを用いた神経系モデル細胞における変異の導入:ヒトiPS細胞を用いたゲノム編集はすでに報告されているが、この手法を用いて、ERBB4変異を導入を検討する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件)
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