中枢神経症状の再発・寛解を反復しやがて慢性に進行するという経過を特徴とする多発性硬化症(MS)の動物モデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)において長期の寛解維持を担う要因として、脳炎惹起性ペプチドのヒエラルキーの中で最上位の優位ペプチドで感作すると抗原特異性の高いCD69CD103共陽性のCD4+CD25high制御性T細胞(=DP-Treg)が誘導・維持されること、DP-Tregが炎症性T細胞と表現型を共有するhybrid Tregを含有し炎症環境下でも安定して疾患制御能を発揮できることがこれまでの研究で明らかになった。 本研究では、このDP-Tregが炎症性T細胞と入れ替わりに発症ピーク以降に誘導・維持される機構と、組織選択的に炎症抑制能を発揮し、さらに組織障害の修復に関与しうる機構とを解明し、疾患を統制する自己免疫ワクチンの適正化と慢性病態に対する治療へ応用を目標とした。すなわち(A) DP-Tregの誘導・維持機構(規定因子);(B) DP-Tregの作用機構(疾患抑制効果);(C) ペプチドワクチンへの応用の3つの観点から解明した。 本年度は(A)に関連して、DP-Tregの中で最も他のサブセットとの差が大きく発現量も高い遺伝子として同定したpreproenkephalin をsiRNAで除去すると確かにDP-Tregは減少し、EAEの再発・再誘導への感受性が惹起されることが確認できた。さらに感作ペプチドのN末端とC末端の長さを調節すると、DP-Tregの誘導能と相関してこの感受性が変化し、MHCとのペプチド結合度が変化することが判明した。 また(C)に関連して、ペプチドを経口的に投与した場合のみならず不完全フロイントアジュバントと混合して感作した場合もEAEが惹起されないが、後者ではDP-Tregが誘導されて組織関連抗原特異的に抑制できることが判明した。
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