研究課題/領域番号 |
16K09707
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
大槻 美佳 北海道大学, 保健科学研究院, 准教授 (10372880)
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研究分担者 |
中川 賀嗣 北海道医療大学, リハビリテーション科学部, 教授 (40273718)
今井 むつみ 慶應義塾大学, 環境情報学部(藤沢), 教授 (60255601)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 失語症 / 脳損傷 / 言語理解 / 指さし課題 / 視線計測器 / 臨床応用 / 単語理解 |
研究実績の概要 |
失語症患者の言語理解を判定する方法として、従来、「言われた単語に該当するものを選択肢から指さす」、あるいは、「命じられた動作や行為を行う」などの方法が用いられてきた。しかし、これらの方法では、言語理解そのものだけではなく、反応までの動作・行為の障害の影響を排除できないという問題点が指摘されていた。そこで、本研究は、失語症患者の言語理解に関して、これまで認知科学分野で用いられてきた視線計測法の簡便機器を用いて、失語症患者の言語理解判定に臨床応用できる新しい方法を確立し、さらに、それらの計測結果から、言語理解の脳内機構に新しい知見を得ることを目的として、計画された。 平成28年度では、簡易版視線計測器(eye tribe)の初期稼働条件設定、患者への適応条件に関する情報収集を経て、実際のプロトコール試作版、PC上で稼働するプログラムの作成などを施行しえた。具体的には、①簡易視線計測器(eye tribe)のキャリブレーション条件の設定、頭部・顔面の固定条件の検討と、被験者の眼球部とモニターとの距離と角度条件の検討、および、設置室内設置環境の条件(明るさや光源の位置など)の調整と決定、②臨床患者における種々の言語課題反応のうち、本検討と整合する反応の可能性の調査、反応様式の可否の検討、また、簡易視線計測器設定条件下において、患者がどのような反応形式なら、負担なく可能なのかの方法の検討(臨床場面における検討)、③プロトコール作成に必要な語彙の選定、その語彙および該当する絵カードの使用条件(許諾条件)の確認、④試作プログラム・プロトコール作成と、研究代表者および分担者における稼働確認を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成28年度の研究実施計画では、簡易視線計測器(eye tribe)の条件設定を行い、健常人や失語症患者に施行を試みる予定であった。しかし、現状、「やや遅れている」という状況である。理由は以下の2点である。 1点目は、この簡易視線計測器が、これまで研究に用いられたことがないという新奇性のため、初期条件設定に時間を要したことである。従来の備え付け機器と異なり、ポータブルで簡易である点は本機器のメリットであるが、一方で、センサーなどが少ないため、キャリブレーションの安定性には劣る面がある。従って、被験者や施行場所が変わることで、頭の位置・モニターからの距離・角度の一定化などの基本条件の他に、検査を施行する部屋の明るさ、光源の位置などの条件も考慮する必要があることが判明した。そのため、初期条件設定のための試行錯誤を繰り返し、その都度、施行を予定している複数の病院の部屋を訪問し、予備実験を行う必要があった。 2点目は、対象が脳損傷による失語症患者であることによるタスク条件設定に時間を要したことらる。本検討では、あるタスク時に、対象者の視線の計測と、実際の反応との関係を検討するため、実際の反応をフィードバックデータとして得る必要がある。当初は、正解をPC上のテンキーなどで選択するといった一般的な方法を想定していたが、失語症患者では、PCのキーを押すという別負荷をかけると、課題の施行が難しくなる場合があることが判明した。そのため、フィードバック方法として、呈示した対象物をそのまま触る、すなわち、PCの画面を直接触る方式に変更する必要があった。これにより、用いるPCをタブレットタイプ型に変更し、その条件で稼働するようなプログラムを作成する必要が生じた。 上記2点の調整に時間を要したため、現時点で「やや遅れている」の判定となった。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、課題のプロトコール、実際に稼働するプログラムを完成させ、それを健常人に施行したのち、失語症患者への臨床応用を開始する予定である。 具体的には、①既にできているプロトコールとプログラムの試案を、小規模な健常人において施行し、稼働状況確認とフィードバックデータの収集、②収集したデータを解析し、本研究の目的にそった結果が得られるかについての吟味と必要な修正、③正式なプロトコールとプログラムを決定、④健常人に施行、⑤失語症患者に施行という手順で推進する。 平成28年度に、初期条件の設定に時間を要して、「やや遅れている」状況であるが、平成29年度は、①は迅速に行い、②③は、もし、研究代表者や分担者で解決しない場合には、その判断を迅速に行い、専門家に助言を仰ぐなどの対策を早期に行う予定である。また、①~③の作業の時期から、ボランティアを募る作業を開始し、③→④が継ぎ目なく進むように配慮する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究で用いる簡易視線計測器の初期設定条件の設定および脳損傷による失語症患者に適応するためのプロトコール・プログラムの作成に時間がかかったため、当初の予定より「やや遅れている」状況の現状である。そのため、最終的なプログラム作成謝金がまだ発生していないのと、健常人への施行まで至っていないので、その謝金が発生していないため、平成28年度に使用しきれない額が、次年度使用額として生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
遅れている分、すなわち、正式なプログラム発注と健常者への適応に関して、平成29年度にプログラム作成謝金、健常人施行に関しての費用として使用予定である。
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