研究実績の概要 |
神経徴候の進行・進展の仕方が筋萎縮性硬化症(ALS)の疾患進行機序を反映している可能性を考え、以下を検討した。 1.複合筋活動電位を指標とした発症肢における局所徴候の悪化速度(local progression time; LPT)と発症肢から他身体領域への症状進展速度(regional spread time; RST)を用いて局所の進行と身体領域進展のどちらが優位かを定量化した値(θ)と、針筋電図による発症肢を基準とした下位運動ニューロン障害の分布(連続型、不連続型、びまん型)との関係について解析した。解析に必要な全データの得られたALS患者は上肢または下肢発症の21例(definite 7例、probable 9例、possible 5例)、進行性筋萎縮症(PMA)患者は7例。ALSの下位運動ニューロン障害は、連続型8例、不連続型7例、びまん型6例で、3群間におけるθの有意差はなかった(ANOVA, p=0.29)。このうち連続型でのみLPTとRSTの間に有意な正の一次相関を認めた(R2=0.91, p=0.0002)が、probable以上の5例に限ると有意な相関は認めず(R2=0.19, p=0.47)、確定的な結論を得ることはできなかった。PMAの下位運動ニューロン障害は、連続型3例、不連続型2例、びまん型2例であり、各型の比率にALSとの有意差はなかった(χ2検定,p=0.97)。 2.上位運動ニューロン障害の定量評価のためtriple stimulation techniqueによる経頭蓋磁気刺激(TST)を施行したALS患者はいずれも上肢発症の7例(definite 1例、probable 2例、possible 4例)、PMA患者は4例。ALSにおいて、TSTの反応の大きさとθは有意な正の一次相関を認めた(R2=0.61, p=0.04)が、TSTによる反応が正常下限値(93%)を下回っていたのは7例中2例のみであり、相関に病的意義があるとは判断し難かった。PMAにおいて両者の間に有意な相関はなかった(p=0.33)。
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