研究課題
脳活動は神経線維束を介して結ばれた遠隔の皮質のどうしの相互作用によって行われる。また、多くの神経精神疾患において引き起こされる認知、情動および運動機能の変化は脳内の神経ネットワークの障害によってもたらされると近年認識されるようになってきた。これらのことを考慮すればヒトの神経線維束の大脳皮質内投射を探求することは、健康なヒトの脳機能を明らかにするためのみならず神経・精神疾患における機能障害のメカニズムを探る上でも重要であると考えられる。私たちは、健康なヒトの大脳の前後を連絡する連合線維の側頭葉・頭頂葉皮質における投射分布を明らかにして、その左右差を可視化することに成功した。また、この左右差が機能的結合の非対称性にも反映されており、このような左側頭葉への非対称的な解剖学的・機能的結合性が、ヒトの言語課題遂行に重要な役割を演じていることも明らかにした。さらには、左側頭葉てんかん患者においては左側頭葉の非対称的結合が減少しており、これが言語課題実施時の活動低下と関連していることを明らかにした。一方で、左頭頂葉への構造的結合は増加しており、これが言語課題実施時の同部位の機能的結合の増加と関連していることが分かった。また、側頭葉てんかんでは、側頭葉と前頭葉を連絡する連合線維がてんかん活動の伝搬に関わっており、この連絡線維の整合性が低下していることも明らかにした。すなわち、左側頭葉てんかん患者においては、度重なる側頭葉から前頭葉へのてんかん活動の伝搬によって、両者を結合する連合線維が障害されているために両者の構造的・機能的結合は低下するものの、頭頂葉と前頭葉の構造的・機能的結合の増加によって、機能が代償されうることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
拡散強調画像の解析により神経線維の皮質内投射分布を明らかにするとともに、機能MRIを用いて課題遂行時の皮質活動および皮質間機能連絡および安静時の機能連絡を測定しており、さらにはこれらの関連について調べている。健康被験者25名と神経疾患患者17名についてデータの解析を実施しておりこれは当初の予定からすると、研究は概ね順調に進展していると考えられる。
脳活動は多様な神経線維束によって連絡される多領域の皮質間ネットワークによって成り立っている。今後はこれらの神経線維束の大脳皮質内分布についてのさらに詳細な可視化を検討する。異常電気信号が脳内ネットワークを伝搬して特定のネットワークに障害を引き起こすてんかんに限らず、パーキンソン病やアルツハイマー病においても特定の脳内ネットワークの変化や障害が報告されている。これらの神経精神疾患における神経線維束の大脳皮質内分布の変化を明らかにすることも検討している。また、これらの結果を別のモダリティの脳機能画像と組み合わせることにより病態解明や診断精度向上につなげるべく研究を推進してゆくことを計画している。
既存品での代用その他の工夫をすることにより当初の予定よりも約10%少ない予算での研究実施が可能になった。
次年度も効率的な研究費の使用をこころがけつつも、より高い研究成果があげられるように適切な予算執行を続けて参る所存である。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件) 学会発表 (1件)
Clin Neurophysiol
巻: 128 ページ: 734-743
10.1016/j.clinph.2017.01.010
Epilepsy Res 2016
巻: 120 ページ: 65-72
10.1016/j.eplepsyres.2015.12.003
Hum Brain Mapp
巻: 37 ページ: 4425-4438
10.1002/hbm.23319