研究課題
ヒトの脳活動は神経線維束を介して結ばれた遠隔の脳領域どうしの相互作用によって行われる。また、多くの神経精神疾患において引き起こされる機能異常は脳内の神経ネットワークの障害によってもたらされる。これらのことから疾患特異的な脳内ネットワークを明らかにすることは、それぞれの疾患の病態生理を明らかにするのみならず早期診断や治療介入に役立つものと考えられる。私たちはこれまでに健康なヒトの大脳の前後を連絡する連合線維のうち弓状束や上縦束について側頭葉頭頂葉皮質における投射分布を明らかにしてその特徴について明らかにしている。今年度はそれに加えて最外包束の神経線維とその側頭葉への投射分布を明らかにすることができた。最外包束はヒト以外の霊長類ではその存在が知られているがヒトにおける投射分布を明らかにした意義は大きいと考えられる。また、パーキンソン病関連疾患における基底核皮質ネットワークの変化を調べる研究で、パーキンソン病、進行性核上麻痺、大脳皮質基底核変性症候群、多系統萎縮症にそれぞれ特異的パターンを見いだすことができた。これらのパーキンソン病関連疾患は、臨床現場における患者のマネジメントのみならず、治療方法を探求する研究上の戦略も異なる。そのため、正確な診断が不可欠であるが、実際には特に早期の段階での鑑別が困難であることが多い。今回の研究の結果は、臨床現場における鑑別診断に利用できるだけではなく、今後開発が期待されるdisease-modifying therapyの研究にも役立つ可能性がある。
2: おおむね順調に進展している
これまでにヒトの大脳の前後を連絡する連合線維の投射分布を明らかにすることができており、またてんかんやパーキンソン病関連疾患における疾患特異的なネットワークを明らかにして病態生理解明や診断に役立てる結果がでており、研究は概ね順調に進展していると考えられる。
多様な神経線維束によって連絡される多領域の皮質間ネットワークの神経線維束の投射分布について更に探求する。疾患対象の研究としては異常電気信号が脳内ネットワークを伝搬して特定のネットワークに障害を引き起こすてんかんやパーキンソン病やアルツハイマー病などのような変性疾患においても、疾患特異的な脳内ネットワークの障害をマルチモダリティーで検出することで、病態生理の解明や診断精度向上につながりうる研究を進めてゆく。
既存品での代用その他の工夫をすることにより当初の予定よりも少ない予算での研究実施が可能になった。次年度も効率的な研究費の使用をこころがけつつも、より高い研究成果があげられるように適切な予算執行を続けて参る所存である。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件)
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