研究課題/領域番号 |
16K09716
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
荒木 克哉 大阪大学, 医学系研究科, 特任研究員 (50649431)
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研究分担者 |
藪本 大紀 大阪大学, 医学部附属病院, 医員 (20774227)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 神経内科学 / パーキンソン病 / アミロイド線維 / α-シヌクレイン / 構造解析 / SPring-8 / 伝播 / プリオン |
研究実績の概要 |
α-シヌクレインはパーキンソン病やレビー小体型認知症におけるレビー小体や多系統萎縮症のグリア細胞内嗜銀性封入体 (GCI)の主成分であり,人工的に作成されたα-シヌクレインのフィブリルが脳内を伝播するということが報告され,近年大変注目されている.この人工的に作成されたフィブリルはβシート構造が周期的に積み重なったクロスβ構造を有しているが,患者脳内にみられる実際のα-シヌクレイン凝集体がクロスβ構造を有しているかどうかは不明である. 我々は,大型放射光施設SPring-8において,放射光顕微赤外分光とマイクロビームX線回折の手法を用いて,パーキンソン病や多系統萎縮症の患者の脳内に存在するα-シヌクレイン凝集体の微細構造解析を試みた.また,ヒトの赤血球内から精製したα-シヌクレインのネイティブ状態の構造を小角散乱法を用いて明らかにした. 放射光顕微赤外分光の実験結果からはレビー小体に比べるとGCIはより多くのβシート構造を有していると考えられた.一方,マイクロビームX線回折では,アルツハイマー病モデルマウスの老人斑においてはクロスβ構造由来の回折像が得られるものの,ヒトの脳内の老人斑,レビー小体,GCIでは明瞭なクロスβ構造由来の回折像は得られなかった.また,α-シヌクレインは生体内でも主に特定の構造を持たない単量体として存在することがわかった. まだ中間報告の段階ではあるが,実際のヒトの脳内に存在するα-シヌクレイン凝集体は,βシート構造の割合が高いものの,人工的に作成されたα-シヌクレインのフィブリルほどクロスβ構造を有していない可能性があり,近年盛んに取り組まれているin vitroにおけるα-シヌクレインの伝播実験が,本当にヒトの生体内で起こっている現象を反映しているかどうかについては,慎重に議論する必要がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SPring-8のビームタイムは限られており,内容次第では不採択となることもあるが,平成28年度は前期・後期ともに予定通りのビームタイムを確保でき,概ね予定通りの実験を行うことができたから.
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今後の研究の推進方策 |
現在は平成28年度に取得したデータの解析中である.この結果を中心に論文として報告する予定であるが,再現性の確認をしたり,もう少し症例数を増やしたりすることを考えており,平成29年度の後期に追加実験を行う予定である. 一方,実験室レベルでは,細胞を用いたα-シヌクレインの伝播モデルが確立しており,平成29年度はこれらの細胞を生きたまま観察することで,凝集や伝播のメカニズムの解明にも挑戦したい.
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次年度使用額が生じた理由 |
高価な測定基盤が再利用可能かを検討したことで予定よりも測定基盤の消費が少なかったことに加え,研究成果を発表した学会がいずれも近隣で開催されたことや今年度は実験助手がいなかったことで旅費が想定よりも少なかったため.
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次年度使用額の使用計画 |
測定基盤の再利用は不適切であることが判明したため,毎回新品を購入する.また,SPring-8における実験に参加する研究員や学生の旅費として使用する.
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