研究課題/領域番号 |
16K09723
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
臼井 桂子 札幌医科大学, 医学部, 講師 (60402872)
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研究分担者 |
長峯 隆 札幌医科大学, 医学部, 教授 (10231490)
井上 有史 独立行政法人国立病院機構(静岡・てんかん神経医療センター臨床研究部), その他部局等, その他 (80374164)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 視覚誘発電位 / 事象関連電位 / 言語関連電位 / 記憶関連電位 / γ帯域活動 |
研究実績の概要 |
ヒト固有の脳機能である言語を介在した情報の記憶に焦点を絞り、①記憶の取り込み(符号化)、②貯蔵、安定化、③再生・再認、の3局面における脳内機構の研究を実施している。初年度の平成28年度は、症候性部分てんかん症例を対象に、脳機能領域間の連携機構の解明に資する有用な知見の蓄積を行った。 ①病変部位と記憶機能の関連:薬剤治療抵抗性の側頭葉てんかん約150名の外科治療術前に実施された神経心理学、電気生理学、画像診断学的評価の総合解析を実施した。これらの症例の中から、右側頭葉内側にてんかん焦点が同定された24名を抽出し、ウェクスラー成人知能検査・ウェクスラー記憶検査の成績と機能画像検査との比較検討を行った結果、病変部位と記憶機能の関連を見出した(詳細は、論文投稿中。)②視覚情報の種類と脳内機能部位(解剖学的位置)の関連:てんかん外科手術前検査ために頭蓋内に硬膜下電極を留置された20症例において、本研究者による自主開発の視覚刺激(視覚性言語課題)を用い、総計約2500箇所にも上る多数の電極から事象関連電位を記録し、評価・解析を実施した。後頭葉と側頭葉の電位の詳細な解析により、視覚刺激提示を起点とした電位出現潜時、および電位を記録した電極の解剖学的部位を同定できた。 誘発特性依存性の発見:起点からの潜時75~250ミリ秒の時間内に、複数の視覚誘発電位および言語関連誘発電位を検出し、(a)単純図形等の無意味刺激で誘発され、輝度や図形の複雑さ等の要素的視覚条件のみで変化する電位成分、および、(b)有意味刺激(文字、単語、線画)に特異的に出現する電位、という誘発特性による明確な分離がなされていることを見出した。 信号伝達の周波数特異性の発見:視覚言語処理過程において、後頭葉から側頭葉の限られた領域において、視覚提示後一定の潜時からγおよびhigh-γ帯域の活動が生じることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脳機能の研究手法は様々なものが存在するが、本研究においては、脳神経細胞の電気的活動に対応する信号の記録方法のうち、(1)頭蓋内に留置した電極から皮質脳波を記録する直接的手法、(2)全脳を網羅する脳磁図による非侵襲的手法、という2つの高感度な手法を、対象者の状況に応じて適用している。 初年度は、主として外科治療症例を対象とし、(1)に該当する頭蓋内電極を用いた皮質脳波の記録と言語関連記憶機能の評価・解析を予定していた。海馬及びその近傍にてんかん焦点を持つ150症例において、頭蓋内電極による皮質脳波の研究(外科治療前)、ならびに、外科治療の前後における記憶機能検査の比較検討を行った。頭蓋内電極による皮質脳波の記録と言語関連記憶機能の評価・解析においては、視覚言語課題による誘発電位、事象関連電位、律動性を持つ神経活動(神経振動)の解析を実施した。これにより、脳内ネットワーク探索のための基盤となる神経心理学的、および解剖学的知見を蓄積し、論文を国際学術誌に投稿する段階にまで至った。 誘発電位、事象関連電位については、出現の有無、波形、潜時、振幅の評価を行い、神経振動については周波数帯域ごとに出現の有無、出現潜時、パワー値(振幅の2乗)の変化、複数の周波数帯域間での変化についての検討を実施した。これにより、言語処理機構、記憶処理機構の時間的空間的推移について知見を蓄積している。このように、具体的実験的データの取得、評価解析により新たな知見が得られたということは、脳機能領域間の連携、さらにはそのネットワークの解明に資するという本研究の目的に向けて、確実に進展していることを意味するものと言える。 なお、(2)に該当する正常被験者を対象とする言語記憶課題による脳磁図の評価解析に関しては、2年目以降にまたがる計画であることから、次年度の報告において記載するものとした。
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今後の研究の推進方策 |
初年度は、頭蓋内電極記録による、皮質脳波の記録と言語関連記憶機能の評価・解析により順調な結果が得られ、研究開始時点で予想された事項に加えて新たな知見も得られている。脳内情報処理が、従来から想定されていたような単経路ではなく、複数の経路、かつ、直列一方向ではなく、並列双方向である可能性を示唆するデータが得られつつあることから、さらに詳細な解析を実施していく価値が明確となったものと考えている。
皮質脳波の解析により、言語情報処理機構に関して電極留置領域という限局された脳領域内における脳内ネットワークの仮説を構築することが可能となった。これらを踏まえ、平成29年度は、全脳における記憶情報処理機構の検討を目的として脳磁図研究を実施する。健常成人を対象として、言語を介する記憶の取り込みと再生・再認を検討するための課題を実施し、脳磁場を記録する。記録データの評価解析においては、言語処理および記憶処理に関連する誘発脳磁場、事象関連脳磁場、律動性を持つ神経活動(神経振動)に関して、出現の有無、波形、潜時、振幅、全脳における空間分布を検討する。これにより、全脳での言語性記憶の脳内ネットワーク仮説を構築する。
脳磁図を用いる研究によりで得ることを想定している、健常者における言語性記憶情報処理機構の時間的空間的分布と、頭蓋内電極に掘る皮質脳波の記録から得られた難治性てんかん症例における言語性記憶商法処理機構の比較を行いうことにより、疾患が記憶処理機構に及ぼす影響を検討するとともに、最終目標である脳機能ネットワークの検証につなげるべく、脳磁場測定における言語関連性記憶課題の最適化を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
応募時申請額と交付決定額の相違により、購入を予定していた物品(視覚・音声刺激提示装置)の購入を中止したことが主たる理由である。それに伴い、研究計画の一部変更が必要となったため、旅費、人件費・謝金についても申請時と異なる使用額となった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、皮質脳波データ解析、脳磁図用刺激提示プログラム開発等のために物品費1500千円、研究打ち合わせ、学会発表等の旅費400千円、脳磁図研究協力者謝金200千円、その他費用100千円の使用を計画している。
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