研究課題
非侵襲的脳刺激法は刺激パターンによって神経のシナプス可塑性を促通性、抑制性の両方向に変化させることができ、学習効果の増強や精神神経疾患の治療に応用できる。しかしヒトでの非侵襲的刺激では効果の個人差が大きく、期待した効果が得られない場合が多い。我々は4連発磁気刺激法(quadripulse stimulation: QPS)の要素と、末梢神経電気刺激と磁気刺激とのペア刺激法(paired-associative stimulation: PAS)の要素とを組み合わせた新しいプロトコル(paired-associative quadripulse stimulation: PA-QPS)を作製し、皮質脊髄路に効果的で確実な可塑性を誘導できるか検証した。健常成人を対象として、左一次運動野に経頭蓋磁気刺激を行い、右短拇指外転筋より運動誘発電位を記録した。可塑性変化を誘導する方法として長期抑圧(LTD)様効果を示すQPSとPAS、LTD同士の組み合わせであるPA-QPS(LTD-LTD)、長期増強(LTP)様効果とLTD様効果との組み合わせであるPA-QPS(LTP-LTD)を行った。PA-QPS(LTD-LTD)では、ほぼ全例で抑圧効果を認め、単独のQPS, PASの抑圧効果よりもさらに強力な抑圧効果を示した。一方でLTP様効果とLTD様効果との組み合わせであるPA-QPS(LTP-LTD)では抑圧効果が消失し、シナプス可塑性変化が認められなかった。QPSの要素とPASの要素とを組み合わせることでより強い抑圧効果を安定して誘導することができた。PA-QPSを用いることで、パーキンソン病やジストニアといった運動異常症の病態解明や治療的応用に期待できる。
2: おおむね順調に進展している
順調に研究が進んでおり、現在は長期増強様効果のプロトコールについて検証している。
今引き続き長期増強様効果のプロトコールについて検討する。また個人間の反応のばらつきについてもより詳細に検討するために、より多くの被験者からデータ収集し、解析する方針。その後は運動学習に及ぼす影響に関する検証を行っていく。
2016年度は神経生理学的検査法を用いた検討を中心に行った。これは当研究施設の備品ですべて賄われたため、使用する必要がなかった。
2017年度は神経生理学的検査法に加えて、運動学習に関する検討を行うことにしている。運動学習を評価するために加速度計と得られたデータの解析用ワークステーションを購入することを予定している。また研究に参加する被験者への謝金や研究発表のための学会参加費、論文校正や掲載費用を計上する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 6件、 招待講演 3件)
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