研究課題
セレノプロテインP (SeP) はインスリン抵抗性を誘導するヘパトカインであり、空腹時状態で誘導され、糖新生亢進と末梢臓器への糖取り込み抑制をもたらす。そこで同じく空腹時状態で誘導される脂肪酸に着目し、パルミチン酸(PA)及びエイコサペンタエン酸(EPA)がH4IIEC肝細胞(H4細胞)におけるSeP遺伝子発現制御に及ぼす影響について検討した。1.PA処置により用量、時間依存的にSepp1遺伝子発現が亢進した。EPA処置により用量、時間依存的にSepp1遺伝子及びSePタンパク発現が減少した。2.ルシフェラーゼアッセイにて同定したSEPP1プロモーター上のPAおよびEPA応答領域は-200から-100bpに存在し、転写因子Sterol regulatory element-binding protein-1c (SREBP-1c)結合配列様部位を有していた。3.SREに結合しうる核内活性型SREBP-1cのPlasmid VectorをH4細胞に遺伝子導入したところ、Sepp1遺伝子発現、SEPP1転写活性が亢進した。 一方、SREBP-1のsiRNAを同様に遺伝子導入し発現を抑制すると、Sepp1遺伝子発現が減少した。 4.PA処置により、Srebp-1、Fasn遺伝子発現が用量依存的に減少し、SREBP1タンパク質の前駆体、核内活性型ともに発現が減少した。EPA処置により、Sepp1と同様にSrebp-1、Fasn遺伝子発現が用量依存的に減少し、SREBP1タンパク質の前駆体、核内活性型ともに発現が減少した。5.SEPP1プロモーターのSRE-like elementを欠損させると、EPAによるSEPP1転写活性低下作用が消失した。またクロマチン免疫沈降法では、EPAによりSREBP-1cのSepp1プロモーターDNAへの結合が減弱した。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、飽和脂肪酸および多価不飽和脂肪酸によるSEPP1発現制御機構を、細胞、モデル動物、ヒトレベルで明らかにすることを目的としている。初年度の目標である脂肪酸によるSEPP1発現制御機序の解明について以下のように明らかにし結論づけた。PAはSREBP-1c経路非依存的にSeP発現を誘導すること、EPAはSREBP-1cの核移行を抑制し、不活化を介して肝臓でのSeP発現を抑制することを示唆した。したがって、EPAによるSeP発現抑制は全身インスリン抵抗性を改善する可能性がある。初年度の予定通りおおむね順調に進展している。
1.マウスへの脂肪酸投与が肝臓SEPP1発現およびインスリン抵抗性に及ぼす作用(動物実験)肥満・2型糖尿病モデルマウスを用いてPA及びEPAを投与し、脂肪酸がSeP発現の制御を介し、全身のインスリン抵抗性に与える影響と機序の解明を行う。また、Sepp1 KOおよびSeP過剰発現マウスを用いてEPAが及ぼすインスリン抵抗性への影響を解析し、SePの役割を明らかにする。EPAはGPR120を介してマクロファージが関与するインスリン抵抗性と関連すること、高脂肪食を与えた肝臓から採取したKupffer細胞のGPR120発現が亢進していることが示されている。そこで、実験動物における脂肪酸投与と、GPR120発現、肝臓および脂肪組織におけるマクロファージの浸潤、Sepp1発現、インスリン抵抗性との関連を明らかする。2.ヒトへの脂肪酸投与が血中SePレベルおよびインスリン抵抗性に及ぼす作用(臨床研究)脂肪肝を有する患者のうち、2型糖尿病および耐糖能異常を有する患者と有しない患者を用いて、血液中の脂肪酸と、SeP濃度、インスリン抵抗性との関連を明らかにする。EPA投与が行われている患者における、肝臓の脂肪化、血液中の脂肪酸と、SeP濃度、インスリン抵抗性との関連を明らかにする。EPA内服で血中SeP濃度が低下した症例において、インスリン抵抗性が改善したかどうかを安定同位体標識グルコース(6,6-2H2グルコース)併用高インスリン正常血糖クランプ検査法で評価する。EPAが及ぼすインスリン抵抗性の改善効果を、事前にSeP濃度を測定することによって予測できないかを検討する
平成28年度に培養実験に加えて動物実験を予定していたが、培養実験のみにとどまった。次年度に動物実験を行うこととしたので、それに伴う経費は繰越とした。
マウスへの脂肪酸投与が肝臓SEPP1発現およびインスリン抵抗性に及ぼす作用について動物実験で明らかにするため、実験用動物ならびに試薬等に使用する。
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