本課題の目標は白色脂肪細胞において、単房性に中性脂肪を効率よく貯蔵することを可能とする因子FSP27が、同時に脂肪細胞内のエネルギー出納を「消費」から「貯蔵」に転換する機構を明らかにすることである。 昨年度までの検討で、野生型の褐色脂肪細胞や、FSP27欠損マウスの白色脂肪細胞ではオートファジーが亢進していることを見出した。どちらの脂肪細胞も多房性に脂肪滴を蓄積しエネルギー消費が増大していることから、オートファジーの亢進は多房性でエネルギー消費が高い細胞の特徴と予想した。さらに薬理学的手法でオートファジーを抑制すると、これら多房性脂肪蓄積細胞における絶食誘導性の脂肪滴縮小が抑制された。 併行して、我々はFSP27のアイソフォームの内、主に白色脂肪細胞に発現するFSP27αが単房性脂肪滴形成に重要で、褐色脂肪細胞に特徴的に発現しているFSP27βが多房性の脂肪滴形成を担っていることを明らかにした。そして、今年度は培養細胞を使用して、FSP27αの過剰発現は、血清除去によるオートファジーの誘導を抑制するが、FSP27βはオートファジーを抑制しないことを明らかにした。以上の結果から、白色脂肪細胞ではFSP27αが脂肪滴を単房性にするとともに、オートファジーを抑制して脂肪分解を抑えることで、効率の良いエネルギー貯蔵を可能にするとともに、褐色脂肪細胞ではFSP27βが多房性の脂肪滴形成に重要な働きをするとともに、オートファジーによる脂肪分解を通して効率よくエネルギー基質である脂肪酸を供給する機能を担っていると予測している。 このように白色脂肪細胞に特徴的なFSP27αと、褐色脂肪細胞に特徴的なFSP27βが、脂肪滴形態とオートファジーを制御することで、両細胞のエネルギー代謝をそれぞれエネルギー蓄積型、エネルギー消費型に方向付けているという興味深い可能性を見出した。
|