研究課題/領域番号 |
16K09750
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
廣田 勇士 神戸大学, 医学部附属病院, 助教 (80566018)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | インスリン抵抗症 / 糖尿病 / エクソーム解析 / iPS細胞 |
研究実績の概要 |
インスリン抵抗症は、強いインスリン抵抗性と治療の困難な糖尿病を特徴とする疾患である。インスリン抵抗症のうち、インスリン受容体遺伝子異常により発症するのがA 型であるが、A 型様の表現型を示すものの、インスリン受容体遺伝子に異常を認めない例もごく稀に存在する。このような例はインスリン受容体以降の情報伝達障害が原因と考えられている。申請者は「優性遺伝形式を持つ新生突然変異の獲得」という極めて稀な遺伝学的病態を持つ「受容体以降の情報伝達障害によるインスリン抵抗症」と考えられる症例を継続診療してきた。本例ではインスリン受容体遺伝子に加え、インスリン情報伝達に関わる主要分子であるIRS1、IRS2、PDK1、Akt1、Akt2 の遺伝子、さらにインスリン抵抗症に類似した表現型を示すとされるPPARγ2 の遺伝子異常(Nat Genet. 31:379, 2002)の検索のため、これらの遺伝子の全コード領域のシークエンスを行ったが、原因となり得る異常は認めていない。本研究では、この症例におけるインスリン抵抗性の原因遺伝子の同定と、原因遺伝子の機能解析を目指す。 原因遺伝子の同定のために、発端者とその家族(両親、配偶者)から得たDNAを用いてエクソーム解析を行ったところ、優性遺伝形式を持つ新生突然変異を示す遺伝子を約550個認め、現在、候補遺伝子の絞り込みを進めている。また、発端者とその児の末梢血単核球にセンダイウイルスベクターを用いて初期化因子(Oct3/4、Sox2、KLF4、c-Myc)を導入し、iPS細胞の樹立を進めている。並行して、既報を参考にして対照iPS細胞から肝細胞(ALB、AFP陽性)への分化誘導を試みた。また対照iPS細胞から骨格筋細胞への分化誘導を行い、RT-PCRや免疫染色でmyosin heavy chainやmyogeninの発現を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
遺伝的解析とiPS細胞を用いた機能解析の2つの解析を行っている。 遺伝的解析については、発端者、その児(罹患者)、発端者の両親、配偶者のエクソーム解析を施行し、候補遺伝子の絞り込みの段階まで進められている。 また、iPS細胞については、発端者とその児由来のiPS細胞を作成中であり、まだ樹立できてはいない。ただし、対照細胞として用いる健常者由来のiPS細胞は樹立した。その対照iPS細胞を用いて、インスリン標的細胞である肝細胞や骨格筋細胞へ分化誘導する系を確立できているため、疾患iPS細胞が作成出来次第、解析へと進められる状態となっている。
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今後の研究の推進方策 |
エクソーム解析で得られた結果から候補遺伝子の絞り込みを行う。また発端者とその児由来のiPS細胞を樹立し、その細胞から肝細胞や骨格筋細胞への誘導を行う。 その後、分化誘導した肝細胞、骨格筋細胞を用い、インスリンによるグルコース取り込み、グリコーゲン合成、糖新生系酵素遺伝子発現などを、対照細胞での反応性と比較することにより、これらの作用が発端者由来細胞で障害されているかどうかを明らかとする。障害が認められた作用については、それらの制御に関わる分子の活性や発現量を解析し、インスリン抵抗性に直接関与していると考えられる分子の候補を絞り込む。 また発端者 iPS 細胞由来肝細胞や骨格筋細胞において、エクソーム解析で得られた候補遺伝子の活性や蛋白発現量を測定する。活性や蛋白発現の異常がみられた分子について、対照細胞や株化した脂肪、肝、筋細胞への過剰発現実験、siRNA を用いたノックダウン実験、あるいは発端者が持つ変異を導入した変異分子の過剰発現実験を行い、上記で認めたような作用の障害が生じるかどうかを検討することにより、インスリン抵抗性の原因遺伝子の同定を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初エクソンシークエンスの解析や、iPS細胞の培養に用いる細胞培養関連試機材や、解析に用いるPCR 用試薬、イムノブロット用試薬、各種ELISA キット等の予算を計上していた。エクソンシークエンスの解析人数に当初は同胞4人も含めていたが、解析の効率化を考えるために段階的に行う事となり、H28年度に解析した検体数が予定より減少したため、予算額よりも使用額が大きく減少した。またiPS細胞を用いた解析系についても、疾患iPS細胞の樹立段階が完全に終了していないため、予算額に対して使用額がやや少なかった。
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次年度使用額の使用計画 |
H29年度において、エクソーム解析については、今年度予定していた同胞の解析も行う。また、疾患iPS細胞の樹立段階もほぼ最終段階であり、これらに必要な試薬の購入にあてる予定である。したがって、本来H28年度に行う予定にしていた研究内容はH29年度にすべて実施する予定であり、かつH29年度に行う実験計画も、当初の予定通り行う予定である。
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