Wolfram症候群のモデルマウスでは高血糖非依存的にβ細胞が脱分化し、一部のβ細胞がグルカゴン産生細胞に分化転換をきたす。さらに糖尿病病態進展とともにβ細胞はホルモン陰性内分泌前駆様細胞に変容し、それらの一部では外分泌細胞や膵管上皮様細胞に転換した。Wfs1欠損マウスでのβ細胞の病態について細胞内エネルギー代謝に着目し、このような細胞可塑性の成因解明を行った。Wfs1欠損膵島ではミトコンドリア機能および脂肪酸酸化は保たれているもののグルコース異化障害に基づくATP産生障害を認め、このことはインスリン分泌障害や細胞数減少の要因となる。さらに、Wfs1欠損膵島において解糖速度と酸素消費速度の顕著な低下を認めた。このような細胞内代謝異常はTxnipを欠損させることにより改善し、インスリン分泌も回復した。さらに、50週齢までの観察において、Wfs1・Txnip二重欠損マウスではβ細胞脱分化と細胞量減少が予防され、全ての個体で正常血糖を維持した。一方、膵β細胞量がまだ維持されている若齢Wfs1欠損マウスにGLP-1受容体作動薬を4週間投与したところ薬剤中止後においてもインスリン分泌が野生型と同等に回復し、この時Txnipの発現亢進が抑制された。したがってGLP-1受容体作動薬による病態改善作用の少なくとも一部にTxnip発現抑制の関与が推察された。以上の結果より、Wolfram症候群の糖尿病に対するTxnipを標的とする治療戦略が提案でき、本研究で解明した分子病態を基盤に治療法開発に向けた研究展開が期待できる。
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