研究課題
本研究では、申請者が脂肪細胞において新たに見出した転写因子IRF7による脂肪細胞肥大化の制御機構を明らかとし、IRF7または活性化機構や下流分子を治療標的とした小分子化合物などの創薬や医療への応用における基盤確立にある。このため平成28年度の計画では以下の研究計画を実施した。1.転写因子IRF7の生理的意義の解明:脂肪細胞が肥大化するときに誘導される転写因子IRF7は、同時に発現誘導されるレプチン遺伝子のプロモータ領域に結合し、その発現を誘導することを見出した。さらに、IRF7を過剰発現させた培養脂肪細胞並びにIRF7ノックダウンした脂肪細胞のDNAマイクロアレイ解析から、新たな標的分子として単球走化性因子MCP-1(Monocyte Chemotactic Protein-1)を同定した。さらにMCP-1遺伝子上における結合部位を同定し、転写因子NF-kBとの相互作用を明らかとした。2.高脂肪食給餌IRF7ノックアウトマウスの解析:IRF7ノックアウトマウスは、高脂肪食給餌において肥満抵抗性を示した。通常食飼育では野生型マウスと体重差や成長に差がなく、また摂餌量に野生型マウスと変化がないことから、脂肪摂食時のエネルギー消費量亢進が推定された。一方、TLR9ノックアウトマウスでのIRF7の発現は上昇していたことから、TLR9-IRF7経路とは別のIRF7の肥満制御機構が推定された。3.IRF7の脂肪細胞特異的トランスジェニックマウスを作製:脂肪細胞特異的にIRF7を発現するトランスジェニックマウスを作製するための、脂肪酸結合タンパク質FABP4/aP2プロモータを用いた発現ベクターを構築した。
1: 当初の計画以上に進展している
申請者は脂肪細胞が肥大化するときに誘導される転写因子IRF7を同定し、この転写因子IRF7が脂肪細胞肥大化時に発現誘導されるレプチンmRNAの発現を制御すること、さらにはIRF7が脂肪蓄積を制御することを見出したことから今回の研究計画を立案・実施したが、IRF7を過剰発現させた培養脂肪細胞並びにIRF7ノックダウンした脂肪細胞のDNAマイクロアレイ解析から、新たなIRF7の標的分子として単球走化性因子MCP-1を同定した。MCP-1は肥満病態におけるインスリン抵抗性やメタボリックシンドロームの鍵分子であることから、IRF7を治療標的とした抗肥満薬や抗糖尿病薬開発への展開が一層期待されることになった。また、IRF7ノックアウトマウスが高脂肪食における肥満誘導に抵抗性を示したことは、IRF7による脂肪細胞の肥大化機構と脂肪蓄積の制御による肥満とメタボリックシンドロームに対する新たな治療戦略を探査が可能となった。肥満とそれに伴う生活習慣病の治療に新たなアイデアが提供できることに繋がることから、当初の計画以上に進展していると判断した。
当初の計画以上に進展していると判断されることから、当初の予定通り研究計画を実施する。具体的には、平成29年度以降の計画として立案した以下の項目(1、2)を順次実施する。(1)脂肪細胞特異的IRF7トランスジェニックマウスの作製・解析と糖・脂質代謝関連標的分子の同定、(2)IRF7によるレプチン発現制御機構の解明とIUGRでの機能解析、(3)脂肪細胞特異的IRF7ノックアウトマウスの作製と解析、(4)TLR9-IRF7パスウエイを活性化するリガンドを探索さらに、IRF7の標的分子としてMCP-1が見出されたことから、単球・マクロファージでのIRF7の機能解析を追加する。本研究の最終的な目標は、申請者が新たに見出した転写因子IRF7による脂肪細胞肥大化の制御機構を明らかとし、IRF7を治療標的とした小分子化合物などの創薬や医療への応用における基盤確立にあるが、脂肪組織における慢性炎症発症の鍵分子としての機能解析を追加することによりIRF7阻害薬開発の可能性を最大限に探索する。
徳島大学大学院医歯薬学研究部代謝栄養学分野ホームページhttps://taishaeiyo.jimdo.com/
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