研究課題
本研究では、申請者が脂肪細胞において新たに見出した転写因子IRF7による脂肪細胞肥大化の制御機構を明らかとし、IRF7または活性化機構や下流分子を治療標的とした小分子化合物などの創薬や医療への応用における基盤確立にある。このため平成29年度の計画では以下の研究計画を実施した。(1)脂肪細胞特異的IRF7トランスジェニックマウスの作製・解析と糖・脂質代謝関連標的分子の同定:IRF7ノックアウトマウスは、高脂肪食給餌において肥満抵抗性を示した。通常食飼育では野生型マウスと体重差や成長に差がなく、また摂餌量に野生型マウスと変化がないことから、脂肪摂食時のエネルギー消費量亢進が推定された。IRF7の標的分子の探索の結果、褐色脂肪細胞においてUCP-1が同定された。さらにIRF7機能同定のため脂肪細胞特異的IRF7トランスジェニックマウスを作成中である。(2)IRF7によるレプチン発現制御機構の解明とIUGRでの機能解析:近年の肥満者の増加の原因として子宮内胎児発育遅延(IUGR)が指摘とされているが、糖尿病などの生活習慣病が急増している社会背景からもIUGRでのレプチンサージにおけるIRF7の関与を検討したところ、IRF7の関与は少ないことが明らかとなった。(3)脂肪細胞特異的IRF7ノックアウトマウスの作製と解析:Adiponectin-Creを用いた脂肪細胞特異的IRF7ノックアウトマウスを作製中であり、高脂肪食負荷時のエネルギー過剰状態での生体のエネルギー代謝調節機構における転写因子IRF7の脂肪細胞特異的な意義を次年度に解析する。(4)TLR9-IRF7パスウエイを活性化するリガンドを探索:IRF7の標的分子としてMCP-1が見出し、脂肪組織炎症の役割を明らかとした。さらにTLR9-IRF7パスウエイを活性化するリガンドとしてLPSを同定したが、この起源として腸内細菌叢が推定された。
1: 当初の計画以上に進展している
申請者は脂肪細胞が肥大化するときに誘導される転写因子IRF7を同定し、この転写因子IRF7が脂肪細胞肥大化時に発現誘導されるレプチンmRNAの発現を制御すること、さらにはIRF7が脂肪蓄積を制御することを見出したことから今回の研究計画を立案・実施したが、IRF7を過剰発現させた培養脂肪細胞並びにIRF7ノックダウンした脂肪細胞のDNAマイクロアレイ解析から、新たなIRF7の標的分子として単球走化性因子MCP-1を平成28年度に同定した。さらに、IRF7ノックアウトマウスが高脂肪食における肥満誘導に抵抗性を示したことから、IRF7による脂肪細胞の肥大化機構と脂肪蓄積の制御による肥満とメタボリックシンドロームに対する新たな治療戦略を探査した結果、脱共役タンパク質UCP-1を同定した。UCP-1は肥満病態におけるメタボリックシンドロームの鍵分子であることから、IRF7を治療標的とした抗肥満薬や抗糖尿病薬開発への展開が一層期待されることになった。これら新規な知見は、肥満とそれに伴う生活習慣病の治療に新たなアイデアが提供できることに繋がることから、当初の計画以上に進展していると判断した。
当初の計画以上に進展していると判断されることから、当初の予定通り研究計画を実施する。具体的には、平成30年度以降の計画として立案した以下の項目(1-3)を順次実施する。(1)脂肪細胞特異的IRF7トランスジェニックマウスの解析(2)脂肪細胞特異的IRF7ノックアウトマウスの作製と解析(3)TLR9-IRF7パスウエイを活性化するリガンドを探索さらに、IRF7の標的分子としてUCP-1が見出されたことから、褐色脂肪組織でのIRF7の機能解析を追加する。本研究の最終的な目標は、申請者が新たに見出した転写因子IRF7による脂肪細胞肥大化の制御機構を明らかとし、IRF7を治療標的とした小分子化合物などの創薬や医療への応用における基盤確立にあるが、脂肪組織における熱産生機構の鍵分子としての機能解析を追加することによりIRF7阻害薬開発の可能性を最大限に探索する。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 7件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件)
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