研究課題/領域番号 |
16K09758
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
佐藤 叔史 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 助教 (90622598)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 低酸素 / 膵β細胞 |
研究実績の概要 |
本研究は、①低酸素によるβ細胞障害分子メカニズムの解明、②糖尿病膵島の低酸素化機序の解明および③β細胞低酸素化に対するGLP-1の防御機構の解明について検討を行う。本研究により、糖尿病におけるβ細胞低酸素の病態的意義が明らかになり、β細胞低酸素を標的とした新たな糖尿病治療法開発への応用が期待される。 平成29年度は、①前年度DNAマイクロアレイにより同定した膵β細胞低酸素応答因子について遺伝子発現様式の検討および低酸素下における機能懐石を培養細胞(MIN6細胞)を用いて検討した。②通常マウスと糖尿病マウスから単離した膵島を用いた細胞外フラックスアナライザー解析の実験系を構築した。③GLP-1による低酸素回避シグナルについて阻害剤を用いて基礎データの採取を行ったがまだ結論には至っていない。 全体的に研究計画からはやや遅れているが、平成30年度(最終年度)は上記②糖尿病膵島の低酸素化機序の解明および③β細胞低酸素化に対するGLP-1の防御機構の解明に関して重点的に検討を行い本課題の結論を出せるように実験計画を見直し、研究を実施する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
①DNAマイクロアレイによって膵β細胞において著明にmRNA発現が誘導される2遺伝子(Bhlhe40, Phd3)を見出した。平成29年度は、これら遺伝子の発現様式の決定、ノックダウンMIN6細胞、過剰発現MIN6細胞の作製およびこれら細胞を用いた低酸素環境における機能解析を行った。両遺伝子共に低酸素誘導因子HIF-1による誘導性があり、低酸素により著明に発現が上昇する。Bhlhe40過剰発現MIN6細胞は細胞増殖、インスリン含量等には影響せず、糖応答性インスリン分泌を低下させた。このことから低酸素下で発現上昇したBhlhe40はインスリン分泌抑制に作用していることが推測された。一方、Phd3過剰発現MIN6細胞はインスリン分泌には影響せず、低酸素下での細胞死を調節している可能性が考えられた。引き続きこれら遺伝子の低酸素下での役割を検討していく。 ②、③糖尿病膵島のミトコンドリア機能とGLP-1による低酸素に対するβ細胞防御機構について検討を行っている。細胞外フラックスアナライザー解析および阻害剤の実験には十分な膵島数の確保が必要であるが条件設定に時間がかかっている。次年度は必ず本実験に進みたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度(最終年度)は上記②糖尿病膵島の低酸素化機序の解明および③β細胞低酸素化に対するGLP-1の防御機構の解明に関して重点的に検討を行い本課題の結論を出せるように実験を計画する。 具体的に②に関しては細胞外フラックスアナライザーを用いて糖尿病マウス膵島のミトコンドリア機能の評価および代謝経路のプロファイリングを行う。さらに膵組織のレクチン染色あるいはCD31染色で血管量の評価を行う。ローダミンデキストランやマイクロスフィアによって膵島内血流量を測定する。また当該年度に血管内皮細胞をイメージングできるマウスを新たに導入し、現在ob/obマウスとの掛け合わせを始めている。以上の検討より膵島内の血管量と低酸素との関係性を明らかにする。 ③に関しては、阻害剤実験を引き続き行うと共に、ピモニダゾールおよびHIF蛋白、インスリンおよびミトコンドリア呼吸鎖関連蛋白(COXなど)の免疫組織染色によりGLP-1による低酸素改善効果についてob/obマウスを用いてin vivoで確認する。 また①に関しては同定した膵β細胞低酸素応答因子(Bhlhe40, Phd3)の機能について詳細な検討を行う。Bhlhe40に関して糖尿病との関連および標的遺伝子の同定を予定している。また生体内での機能を知るためにノックアウトマウスの導入を考えている。またPhd3に関しては培養細胞での詳細な機能解析(低酸素応答、糖代謝変化や血管新生など)を考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)来年度から高額な消耗品の購入により支出が増えることが想定されたため当該年度の予算を次年度に繰り越すこととした。
(使用計画)肥満糖尿病モデルマウスの大量購入および細胞外フレックスアナライザーに使用する消耗品に繰り越し予算を使用する予定である。
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