2型糖尿病の進行の過程で、膵島β細胞の機能の低下(機能破綻)が起きる背景の分子機構の解明を目指している。これまでに、β細胞の機能を支える転写制御因子MafAのタンパク質レベルを調節(タンパク質の安定性の調節)するβ細胞内のシステムを明らかにすることに取り組んできた。 前年度までの知見に基づき、β細胞株MIN6をKCC (potacium-chloride co-transporter)の阻害剤R(+)-DIOAで処理すると、内在MafAタンパク質が減少することを見出した。この減少は、プロテアソーム阻害剤MG132処理によって完全にブロックできた。一方、アミノ酸類自化合物タウリン(アミノエチルスルホン酸)処理によって、MafAタンパク質は逆に増加することが分かったが、この効果はR(+)-DIOAによって完全にキャンセルされた。タウリンはWNK-Stk39カスケードを介してKCCなどのイオン・トランスポーター活性を調節することが知られていることから、細胞内イオンの調節機構がMafAタンパク質量を調節していることが予想され、その分子機構の探索を続けている。タウリンは、食品成分として糖尿病態の改善効果があることが報告されているが、分子機構は不明であった。本研究は、この効果の一部を分子レベルで裏付ける成果である。 一方、MafA量を負に制御する仕組みのひとつとしてオートファジー阻害を見出してきたが、当初の観察結果を精査したところ、これはmRNAレベルでの制御であることが判明した。そこで、mafAの転写レベルでの調節も膵島β細胞の機能破綻に寄与すると示唆されていることも鑑み、mafAのプロモーターおよびエンハンサー領域をクローン化し、Luc Assayによってオートファジー阻害によって転写をモニターできる系を確立した。この系を利用し、β細胞の機能破綻との関連を新しい切り口で解明中である。
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