研究課題/領域番号 |
16K09771
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研究機関 | 公益財団法人額田医学生物学研究所 |
研究代表者 |
八木橋 操六 公益財団法人額田医学生物学研究所, その他部局等, その他 (40111231)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 2型糖尿病 / 膵ランゲルハンス島 / β細胞 / α細胞 / 分化転換 / 治療 / 病理 |
研究実績の概要 |
2型糖尿病の動物モデルである自然発症糖尿病GKラットを用い、その膵島病変について検討した。対照として健常Wistarラットを用い、月齢を合わせて比較検討した。これまでの報告と同じく、膵β細胞容積の有意な減少を6か月齢から認め、これに対しα細胞容積の相対的増加を認めた。膵島容積自体の有意な減少はなく、膵β細胞容積減少はβ細胞の消失のみならず、β細胞からα、あるいはδ細胞への分化転換が生じている可能性が考えられた。分化転換についてさらに検討する目的から、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、膵ペプチドに対する抗体により多重免疫染色を実施した。その結果、インスリン、グルカゴン双方に陽性となる2重細胞、およびインスリン、ソマトスタチン双方に陽性の2重細胞が膵島構成細胞の0.2-0.5%に検出された。また、いずれのホルモンにも陰性の未分化細胞も2-8%にみられた。健常ラットではこれらの細胞は観察されなかった。一方、DPP-IV阻害薬やSGLT2阻害薬など新しい糖尿病治療薬で膵β細胞の保持、あるいは構成細胞の維持が期待されるかを検討した。その結果、DPP-IV阻害薬では投与期間6か月でβ細胞の減少率の抑制、さらには二重陽性細胞の増加(1.2-2.5%)を認め、β細胞保持に向けての膵島維持の傾向がみられた。これに対し、SGLT2阻害薬では、投与期間4か月で、β細胞の減少に影響はみられなかった。DPP-IV阻害薬、SGLT2阻害薬を併用した群では、β細胞の保持がもっともよく観察された。これらの動物モデルでの結果がヒト糖尿病でもみられるかを現在継続して観察中である。これまで、ヒト2型糖尿病ではβ細胞容積減少、α細胞容積増加が確認されており、また2重細胞や未分化細胞も症例によって数%観察されている。今後、さらに膵島構成細胞、治療の影響などについて分化転換状態について検討する段階にある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
動物モデルを用いた膵島病理の検討については順調に進んでいる。とくに免疫染色による2重陽性細胞の検出は予測通りの結果が得られている。また、臨床上重要となる、DPP-IV阻害薬、SGLT2阻害薬の影響では、膵島のリモデリングの是正がみられ、有益な情報が得られている。一方、これに対し、ヒト2型糖尿病の検討では、予測以上に症例の集積に時間を要している。とくに倫理委員会を通した申請、およびその承認に要する時間も必要であった。また臨床データの記載など十分でない症例も多く、整理が必要とされた。しかしながら、糖尿病学会の支援などから症例数の増加は着実にみられており、今後詳細な検討が可能となる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
動物モデルにおける膵島細胞の分化転換のテーマについては、若齢、老齢のラットでの比較で内分泌細胞の可塑性について今後詳細な検討を加える予定である。一方、インスリン抵抗性が膵島細胞の分化転換に大きな影響を与えている可能性がみられ、インスリン抵抗性を特徴とするモデルでの検討を試みたいと考えている。 ヒト糖尿病での膵島細胞の検討は着手したばかりであるが、分化転換細胞が健常者と糖尿病者で大きな差がみられることから、糖尿病者での変化について、糖尿病グループをやせ型、肥満型、若年者、高齢者など亜分類をし、比較検討を試みる予定にある。さらに、2型糖尿病の指標ともされる膵島アミロイド沈着の意義について、膵島内血管、神経分布との関わりとともに、膵島リモデリングの内容を確立していきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
ヒト糖尿病症例の病理研究が倫理審査に予定以上の時間を必要としたこと、症例数の探索に時間を要したことから、研究の進捗がやや遅れ、試薬、抗体、実験器具等の購入費用が予定以上に少なかった。今後、検索症例数の増加に伴い、必要試薬などの購入が多くなることが予測され、研究費の消費が促進される予定である。一方、実験動物を用いた研究についても電気泳動、PCRなどを実施する予定であったが、病理評価に時間を要し生化学的研究がやや遅れている。この分野も今後強化し推進する予定である。
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