研究課題
本研究では、NAFLD患者の肝生検組織標本を用い、肝インスリンシグナルにおける糖新生抑制経路や脂肪合成経路に関わる鍵分子の遺伝子発現を包括的に定量化するとともに、病理学的重症度や臨床的データとの関連性を検討することで、実際にヒトでのNAFLDにおけるインスリンシグナルの状況とその病態における関連を明らかにすることである。健常対照群、単純性脂肪肝群 、NASH群の3群間で肝臓のinsulin受容体、IRS-1、IRS-2、PEPCK、G6Pase、GCK、FASの各遺伝子発現量を定量化した。さらに、各遺伝子発現量と臨床指標との関連およびNAFLDの病理学的重症度スコアとの関連を解析した。その結果、以下の3点が明らかとなった。①IRS-2遺伝子発現量が健常対照群と比較し、単純性脂肪肝群・NASH群において有意に低値であり、PEPCK、G6Pase遺伝子発現量は有意に高値であった。さらにIRS-2 遺伝子発現はPEPCKおよびG6Pase 遺伝子発現と負の相関を認めた。さらに、病理学的重症度との関連の解析から、IRS-2遺伝子発現抑制はNAFLD進行過程における比較的早期の段階で惹起されていた。②FAS遺伝子発現量が健常対照群と比較し単純性脂肪肝群で上昇傾向、NASH群で有意な上昇を認めた。糖代謝にむけたインスリンシグナルは抑制されているものの、それとは対象的に脂肪合成に向けたインスリンシグナルは亢進していることが示唆された。③insulin受容体遺伝子の発現は健常対照群と比較し、単純性脂肪肝群・NASH群において有意に高値で、さらに、insulin受容体遺伝子発現が病理学的重症度と有意な正相関を認めた。
2: おおむね順調に進展している
ヒト肝生検試料を用いた研究で、NAFLDでインスリンシグナルに関係する分子の変化について明らかにすることができ、本研究の骨格は示すことができたから。
IR遺伝子発現がNAFLDで高いことが本研究で分かったが、今後はIRのisoformについても検討したい。IRのisoformについてはIR-AとIR-Bがあり、IR-Bは完全長でIR-Aはexon11がないためα-subunitが短縮している。インスリン受容体は2量体を形成し、IR-A,IR-B,IGF1のそれぞれがhomodimerあるいはheterodimerを形成する。IR-Aが含まれる2量体はmetabolic effectよりもmitogenic effectが強いことが報告されている。今後、NAFLDでインスリン受容体isoformの発現と病態との関連を検討したいと考える。
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