研究課題
A.単回脂肪投与によるGIP分泌におけるFABP5の機能:FABPは細胞質に存在するタンパクであることから、摂取した脂肪酸が何らかの機構により細胞内に取り込まれ、FABP5と結合することが推定された。急性脂肪投与時GIP分泌におけるFABP5の役割を解明するため、空腹時および脂肪摂取後のマウス小腸の標本を作成し電子顕微鏡で観察した。脂肪摂取後の小腸吸収上皮細胞内で脂肪滴の増加を認めたのに対し、K細胞内に明らかな脂肪滴の蓄積は確認できなかった。一方空腹時には細胞質内および核内に分布していたFABP5が、脂肪摂取後90分では核内への分布を認めず、K細胞内のFABP5が脂肪摂取により核外へ移行する可能性が示唆される結果であった。しかしながら観察し得たK細胞数が少なく、アーチファクトの可能性も含め更なる検討が必要である。B.FABP5欠損に伴うK細胞の質的変化の検討:慢性的なFABP5作用の欠失によるK細胞の質的変化を評価するため、FABP5欠損マウス、野生型マウスでK細胞のマイクロアレイ解析を行った。脂肪酸受容体など脂肪酸摂取や代謝・栄養状態の感知、細胞応答に関連する分子に関しては、FABP5欠損マウスと野生型マウスのK細胞で有意な差を認めなかった。それ以外でFABP5欠損マウス、野生型マウスで発現量の異なる候補分子を抽出し得たが、FABP5との関連については未解析であり、今後検討を進める予定である。C. 薬剤を用いたFABP5の制御によるGIP分泌・肥満形成への効果:in vitroでFABP5の生理阻害活性を持つことが報告されているα-truxillic acidおよびその合成化合物であるSB-FI-26をマウスに経口投与し、脂肪摂取時GIP分泌を非投与群と比較したが、有意な差は認めなかった。長期投与における効果は未評価であり、今後検討予定である。
3: やや遅れている
FABP5のK細胞における機能の解析を進めるうえで、まず脂肪摂取前後のK細胞の形態的観察を行った。脂肪摂取によりFABP5の細胞内局在が変化する可能性もあるが、腸管内分泌細胞の電子顕微鏡による観察は技術的に極めて困難であり、観察しうる細胞数に限界がある。得られた結果の再現性やアーチファクトの可能性を確認するため、培養細胞等を用いた他の手法による検証が必要である。またK細胞のマイクロアレイ解析により抽出し得た候補分子は、GIP分泌における機能、特にFABP5との関連性について、想定の困難なものであり、今後の解析に関して検討中である。
今後はこれまでの実験結果を踏まえて、FABP5のK細胞における機能の解析を進めるとともに、実験計画に従って、もうひとつの課題である「脂質によるGIP分泌における胆汁の作用点の解明」も進める。①既知の胆汁酸シグナルによるGIP分泌への影響②ミセル形成の重要性③胆汁酸の種類による効果の差異、などの点を中心に検討を行う予定であるが、既に、脂肪酸受容体であるGPR120とGPR40がK細胞に発現しており、双方とも油脂摂取時のGIP分泌に関与していること、さらにGPR120はCCK分泌・胆汁分泌を介して間接的にGIP分泌を制御していることを新たに見出し報告した(Sankoda A et al., Endocrinology. Epub ahead of print 2017)。必要な技術、資材に関してはおおむね準備が整っており、研究の推進に大きな支障はないものと考えている。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件)
Endocrinology
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1210/en.2017-00090.
Diabetes
巻: 66 ページ: 868-879
10.2337/db16-0758
Molecular Metabolism
巻: 6 ページ: 288-294
10.1016/j.molmet.2017.01.006