研究課題/領域番号 |
16K09778
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山根 俊介 京都大学, 医学研究科, 助教 (90582156)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 脂肪酸結合タンパク / 細胞内局在 / Gタンパク質シグナル伝達調節因子 |
研究実績の概要 |
脂肪摂取後のK細胞におけるFABP5細胞内局在の変化を明らかにするため、野生型マウスに対し16時間の絶食後に経口脂肪負荷を行い、負荷前と負荷後一定時間 (30分後、60分後、120分後) で上部小腸を摘出、一次抗体を抗FABP5抗体、二次抗体をimmunogoldとした染色を行い電子顕微鏡で観察したところ、FABP5は負荷前にはK細胞の核内・細胞質両方に存在していたが、脂肪負荷60分後には核内の局在は消失していた。さらにGIP-GFPノックインマウスに同様の脂肪負荷を行った後、小腸を摘出し、一次抗体として抗FABP5抗体および抗GFP抗体を用いた免疫組織染色を行った。共焦点顕微鏡で観察したところ、脂肪負荷後60分でFABP5核内染色性の一過性低下を認めたが、経口糖負荷後の観察では、FABP5の細胞内局在変化は認めなかった。K細胞のマイクロアレイ解析の結果、脂肪酸受容体や脂肪酸トランスポーター、SREBPs、ChREBP、PPARsなど脂肪酸摂取や代謝・栄養状態の感知、細胞応答に関連する分子にFABP5欠損マウスと野生型マウスに明らかな発現の差は認めなかった。一方GTPase-activating protein (GAP) としての作用により、Gαの活性を負に制御するタンパク群のひとつであるGタンパク質シグナル伝達調節因子4 (Regulator of G protein signaling 4: RGS4)の発現が、FABP5欠損マウスのK細胞で野生型マウスのK細胞よりも有意に高く、real-time PCRによる検討でも同様の結果であった。脂肪酸受容体の下流シグナルを、FABP5がRGS4を介して制御している可能性が示唆されたが、詳細な機序に関してさらなる解析に着手している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
FABP5のK細胞における機能の解析を進めるうえで、まず脂肪摂取前後のK細胞の形態的観察を行った。脂肪摂取によりFABP5の細胞内局在が変化する可能性があり、ブドウ糖摂取時には見られない変化であることから、脂肪摂取時GIP分泌に特異的な細胞内シグナルにFABP5が関与している可能性が示唆される結果であった。またK細胞のマイクロアレイの結果から、RGS4がFABP5によるGIP分泌シグナルに関わっている可能性があるが、詳細な機能、FABP5との関連性については、既報から推測することは困難であり、今後の解析方法に関して検討している。
|
今後の研究の推進方策 |
今回行ったFABP5の細胞内局在に関する組織学的検討からは、脂肪摂取に伴い、FABP5の細胞内局在が変化している可能性がある。しかしながら再現性の確認も含めた更なる検討を進める必要がある。単離K細胞を用いたマイクロアレイ解析の結果から、FABP5欠損K細胞では野生型K細胞に比べて、RGS4の発現が有意に高いことが示された。RGS4はGTPase-activating protein (GAP) として作用し、Giα, GoαおよびGqαをGDP結合状態に誘導し不活性化することで、GPRの下流シグナルを負に制御することが知られている。長鎖脂肪酸受容体であるGPR120およびGPR40はいずれもGqタンパクと共役することが知られており、FABP5がRGS4を介してGIP分泌を制御している可能性が示唆された。RGS4は神経細胞においてμオピオイド受容体の下流にあって、オピオイドの脱感作に関与することや、統合失調症患者の脳検体においてRGS4の発現が増加していることなどが報告されているが、内分泌細胞での発現や調節性分泌機構における機能に関しての知見はない。FABP5によるRGS4の発現制御機構に関しても、現段階で明らかにできていないが、FABP5の直接的な作用標的解明のため、FABP5にFLAGタグをつけた発現ベクターを腸管内分泌細胞株STC-1で発現させ、FLAG抗体による免疫沈降後、SDS-PAGEのゲルから回収されたタンパク質をLC-MS法で同定するといった手法も検討している。必要な技術、資材に関してはおおむね準備が整っており、研究の推進に大きな支障はないものと考えている。
|