研究課題/領域番号 |
16K09779
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研究機関 | 国立研究開発法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
野口 倫生 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, その他, 室長 (00432394)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 脂肪萎縮症 / 肥満 / メタボリックシンドローム / 炎症 / 線維化 |
研究実績の概要 |
全身性脂肪萎縮症は全身の脂肪組織の消失により著明な高血糖、インスリン抵抗性、高中性脂肪血症、脂肪肝を呈する疾患であり生命予後不良な難治性疾患である。セイピンをコードするBSCL2遺伝子は先天性全身性脂肪萎縮症の原因遺伝子の一つであるがその機能は十分に明らかにされていない。我々はENUミュータジェネシス法により20 番目のアミノ酸がストップコドンに置換されるセイピンノックアウト(SKO)ラットを作製した(Hum Mol Genet 2015)。このモデル動物はヒト脂肪萎縮症と同様に高血糖、インスリン抵抗性、高中性脂肪血症、脂肪肝を呈した。従来のA-ZIP/F1マウスなどの脂肪萎縮症モデルマウスでは脂肪組織が残存しないため十分な解析が困難であった。しかしSKOラットは残存組織が存在し、電顕像等の組織学的解析から結合織の増生、脂肪組織の線維化が認められた。また申請者らは全身性脂肪萎縮症患者でBSCL2遺伝子異常を有する脂肪萎縮症iPS細胞を樹立し、脂肪細胞分化誘導により健常者由来のiPS細胞と比較し著明な脂肪蓄積の低下を認め、脂肪細胞関連遺伝子の発現低下を認めたことを示した(Metabolism 2016)。患者由来の脂肪組織とSKOラットに共通して脂肪組織における結合織の増生、線維化が認められる。脂肪萎縮症における脂肪組織線維化は肥満症と同様に慢性炎症を伴い、細胞外マトリックス(ECM)リモデリングを惹起するかについて組織学的、分子生物学的に詳細に検討している。脂肪萎縮の分子基盤を解明し新たな肥満症・メタボリックシンドロームの新規治療標的の探索を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は主にSKOラットと肥満モデルレプチン欠損ラットの脂肪組織線維化・炎症の遺伝子発現に関する共通項の探索を行った。脂肪萎縮症は脂肪組織の欠失に起因する疾患であり、高度のインスリン抵抗性、著明な糖脂質代謝異常などを伴う難治性糖尿病を呈する。脂肪萎縮症では脂肪組織の欠失により脂肪細胞由来ホルモンであるレプチンなどのアディポサイトカインが欠乏する。脂肪萎縮症患者の残存脂肪組織では脂肪組織の線維化が認められる。SKOラットの皮下脂肪組織においても明らかに結合組織の増生が認められ、脂肪組織の線維化をきたしている。SKOラット由来脂肪組織と野生型ラット由来脂肪組織からRNAを抽出しマイクロアレイにて解析を行い、注目すべき候補遺伝子について定量PCR解析でその発現を検討した。ECMを構成するコラーゲン(Col 1, 3, 4, 5, 6)、フィブロネクチン、プロテオグリカン、ラミニン等の発現と分解系のMatrix Metalloproteinase (MMP)分子群の発現について検討を行った。マクロファージの浸潤や線維化を惹起するgrowth factorやchemokine等の発現を検討した。 この結果、典型的な肥満脂肪組織で発現上昇が認められる線維化関連遺伝子群は脂肪萎縮症の残存脂肪組織では発現が低値であった。また同じく典型的な肥満脂肪組織で発現上昇が認められるマクロファージマーカー、ケモカイン、炎症性サイトカイン等の炎症関連遺伝子群も脂肪萎縮症の残存脂肪組織で顕著な上昇を認めるものはなかった。
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今後の研究の推進方策 |
申請者らはラット間質血管分画(SVF)の初代培養から前駆脂肪細胞分画を調整し、高効率な脂肪細胞分化誘導系の確立を行った。1野生型ラット脂肪組織を従来のcollagenaseによるdigestionにて脂肪細胞分画と間質血管分画に分離する。2間質血管分画からvasculature debrisを除去し、40μmフィルターに通し可能な限り血管構成細胞を除去する。3培養皿に播種し、接着細胞が増殖する。コンフルエント2日後に脂肪細胞分化誘導開始。同様の手法を用いてSKOラットからも前駆脂肪細胞分画を調整した。得られた細胞集団の前駆脂肪細胞としてのcharacterizationをFACSによる細胞表面抗原解析を行い、両者が同様の解析結果が得られている。そしてSKOラット由来細胞は野生型由来細胞と比較して著明な脂肪細胞分化障害及び脂肪蓄積障害をきたした。今後の研究方針として脂肪萎縮の分子基盤を明らかにするために、分化誘導前と分化誘導段階の2箇所のタイムポイントで遺伝子発現を比較することで病態を惹起しうる候補因子をピックアップする。典型的な肥満脂肪組織で発現上昇が認められる線維化関連遺伝子群は脂肪萎縮症の残存脂肪組織では発現が低値であったことから、SKOラットの脂肪組織で独自に発現上昇を認める細胞外マトリックスの遺伝子群や線維化を惹起する液性因子が分化誘導前で既に上昇しているかについて検討を予定している。また分化誘導段階で脂肪の蓄積に関する遺伝子発現に差が出ているかについても検討予定である。脂肪萎縮の分子基盤の解明と肥満症との関連について検討を重ねる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度は2018年1月からの申請者の所属研究施設変更に伴い、旧所属施設ではやむなく数ヶ月前から実験規模を縮小させ、異動に備える必要があった。また異動後は新しい所属施設での研究実施体制のセットアップに時間と労力を費やすこととなった。旧所属施設では研究室が閉鎖となるため、解析に必要なサンプリングを行ったうえで動物実験は一旦終了となり、凍結精子保存することとなった。現在は新所属施設において解析が可能な体制は整い、動物実験についても開始できる体制を整えている。平成30年度はサンプリングを終えた試料の生化学的解析あるいは免疫化学的解析を重点的に行い、利用可能なデータベースでヒト病態との関連などの検証を行う予定である。必要に応じて動物を再調達し解析を行う予定としている。
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