研究実績の概要 |
Hippo pathwayは、細胞増殖や器官サイズを制御するシグナル伝達系として明らかになっている。Hippo pathwayによるシグナルは、最終的に転写共役因子YAP/TAZの活性を制御することで様々な遺伝子の発現を調節している。最近、我々は卵巣顆粒膜細胞においてcAMPシグナルで誘導される多くの遺伝子がYAP/TAZにより抑制されることを見いだしている。 本年度は、顆粒膜細胞におけるYAP/TAZによる転写調節メカニズムの解析を行った。転写共役因子はDNAに結合する転写因子に作用することで、遺伝子発現を制御している。そこでYAP/TAZが相互作用する因子について検討したところ、転写因子TEADが同定された。顆粒膜細胞におけるTEADノックダウンの影響を検討したところ、YAP/TAZのノックダウンと同様、YAP/TAZ標的遺伝子であるCTGF, CYR61が発現抑制される一方で、ステロイド代謝酵素CYP19A1, CYP11A1, HSD3B2が発現誘導された。顆粒膜細胞におけるステロイド代謝酵素の発現抑制に、YAP/TAZとTEADの相互作用が及ぼす影響を検討する目的で、TEADノックダウン細胞にYAPの恒常性活性化型である5SA-YAPを強制発現した。その結果、コントロール細胞では5SA-YAP を強制発現すると、8Br-cAMP誘導性のCYP19A1, CYP11A1, HSD3B2発現が著しく抑制される一方、TEADノックダウン細胞に5SA-YAPを強制発現したところ、CYP19A1, CYP11A1, HSD3B2の発現抑制は観察されなかった。 これらの結果から、卵巣顆粒膜細胞ではHippo pathway下流のYAP/TAZ-TEAD複合体がステロイド産生を抑制的に制御しており、FSHはこの抑制を解除することでステロイド産生を促進する可能性が推測された。
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