研究課題
アディポネクチン(APN)はGPIアンカー型膜蛋白T-カドヘリン(T-cad)を介して心血管保護作用を発揮することを示してきたが、T-cad蛋白には、細胞内シグナル発生に必要な膜貫通領域や細胞内ドメインがなく、その分子メカニズムは不明であった。多量体APNは、血中の特異的かつ主要なT-cadリガンド蛋白であり、KD=1 nMの高親和性に結合し、T-cadの細胞外領域EC1及びEC2に加え、T-cadに特有のプロドメインがAPNとの結合に関与していることを明らかにした。また、T-cadカラムを作製することで、血中から効率的に多量体APNを精製する手法を確立した。(Fukuda et al., JBC 2017)精製した多量体APNを用いた検討によって、APNは細胞表面のT-cadに結合することで、大動脈内皮細胞の内部、主にエクソソーム(Exo)産生の場であるMultivesicular bodies(MVB)に多量に取り込まれ、Exo成分として再分泌されるのみならず、Exo産生を促進し、その作用はマウスの血中Exoレベルをも規定することを見出した。さらに、APNによるExo産生促進作用は、Exoに搬出することで培養内皮細胞のセラミドを低下し、病態におけるマウス大動脈血管のセラミド蓄積を低減することを見出した。Exoは細胞内不要物の排出・除去を通じて、細胞の恒常性維持や保護に働くことが知られる。APNは定常的に血中濃度2~20μg/mLと通常のホルモン・サイトカインの1,000~1,000,000倍と非常に高濃度に存在する分泌因子である。本研究で明らかにしたAPNの新しい作用分子メカニズムは、APNの多種多彩な心血管保護作用をも説明し得る可能性がある。(Obata et al., JCI Insight 2018 in press)
1: 当初の計画以上に進展している
本研究は、①アディポネクチンが集積細胞の細胞外小胞(エクソソーム)産生を促進することで、生体のエクソソームレベルを規定していることを実験的に証明し、②アディポネクチンによるエクソソーム産生制御機構を分子的に解明することで、アディポネクチンの組織修復作用を治療に応用するストラテジーを提案することにあった。研究実績の概要に示す通り、①に関する研究を完了し、これを報告した(Fukuda et al., JBC 2017、Obata et al., JCI Insight 2018 in press)。②に関しては①の知見に立脚し、さらに心不全や高血圧、糖尿病の病態において、T-カドヘリンの蛋白発現低下とアディポネクチンの心血管組織集積低下が惹起されていること、また同時にこれらの病態ではADAM12の顕著な発現増加があることを見出している。また細胞培養系においては、アディポネクチンの添加、ADAM12のノックダウンや阻害剤によってT-カドヘリンの切断遊離が著減し、細胞のT-カドヘリン、及びアディポネクチンの集積が増加することを見出しており、研究は興和創薬㈱との共同研究へと発展する予定である。さらに幹細胞に発現するT-カドヘリンの機能に関しては、幹細胞のT-カドヘリンを修飾することで心不全等への幹細胞移植療法の効果が変化するか否かを、ロート製薬㈱との共同研究として進めている。
①アディポネクチンによって産生促進されたエクソソームの組成成分の違いについて、miR解析(国立がん研究センター研究所 落谷先生)、脂質の網羅的解析(九州大学 生体防御医学研究所附属トランスオミクス医学研究センター 馬場先生)、プロテオミクスについて共同研究等を進めている。アディポネクチンが如何にして心血管組織防御作用を発揮しているかを、②心血管病態、肥満糖尿病病態における組織T-カドヘリンの低下とその機序解明、③ADAM12欠損マウスを用いたT-カドヘリン切断制御機構の解析(興和創薬㈱共同研究)、④間葉系幹細胞のT-カドヘリンを介した機能維持・改善(ロート製薬㈱共同研究)、の3点から、大学院生2名と研究生1名を含む研究体制で取り組んでいる。⑤骨格筋の再生をT-カドヘリン依存的に改善することを見出しており、分子レベルからその詳細を、大阪大学薬学部深田准教授との共同研究として、大学院生1名を含む研究体制で取り組んでいる。⑥またアディポネクチンによるT-カドヘリンの細胞膜上でのダイナミクスを、GPI-アンカー型蛋白であるT-カドヘリンの会合とエンドサイトーシス、T-カドヘリン相互作用蛋白の解析に焦点を当てて、大阪大学蛋白質研究所高木教授との共同研究として、博士研究員1名を含む研究体制で取り組んでいる。
昨年度は、上記の研究を科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)等の助成金以外にロート製薬㈱共同研究や興和創薬㈱共同研究に伴う共同研究費、さらに大阪大学産学連携本部からの助成金等を得て進めることが出来た。今年度は①T-カドヘリンの組織特異的、誘導型KOマウスの作出による、アディポネクチン/T-カドヘリンシステムのより詳細な解明、②切断遊離した血中T-カドヘリン定量系の開発、③アディポネクチンの神経変性疾患・脳血管障害予防治療効果とその機序、④エクソソームを介する全身的セラミド代謝循環機構の解明、⑤糖脂質代謝におけるアディポネクチン/T-カドヘリンシステムの生理病態学的意義の解明の5つの研究を新たに展開するために、翌年度分として請求した助成金を合わせて使用する。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (13件) (うち招待講演 2件)
JCI Insight
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J Biol Chem.
巻: 292 ページ: 7840-7849
10.1074/jbc.M117.780734.