研究課題
2型糖尿病患者の膵β細胞量は発症前から減少していることが明らかとなり、糖尿病発症予防のために膵β細胞量の維持が望まれる。近年、新規薬の相次ぐ登場により様々なメカニズムで血糖値を改善させることが可能であるが、糖尿病発症予防薬として確固たる地位を築いている薬剤はない。代表者はこれまでに高脂肪食負荷GCN2欠損マウスを用いた検討により、膵β細胞におけるmTORC1シグナル調節が膵β細胞量維持に必要であることを明らかにした。本研究では、膵β細胞におけるmTORC1シグナルがどのようなシステムで維持、あるいは破綻するのかを検討することにより、膵β細胞保護効果をもつ薬剤を探索することが目的である。まず代表者は、GCN2欠損によりmTORC1シグナルが亢進する機序について解析を開始した。その結果、GCN2の下流に存在するREDD1、GADD34、SESN2の3分子が鍵分子として候補に上がった。GCN2欠損マウスの膵島における発現を確認した結果、SESN2のみが有意に発現低下していることが明らかとなった。SESN2のノックダウンによって、膵β細胞株のmTORC1活性は有意に亢進した。さらにSESN2の発現ベクターを導入することにより、mTORC1シグナルの抑制に伴った細胞増殖能の回復が認められた。これらの結果より、SESN2はmTORC1活性亢進に伴う膵β細胞不全において、治療標的分子となることが示唆された。また最近代表者は、Tsc2ノックアウトマウスの膵島において、脱分化が亢進していることも新たに見出している。糖尿病状態では膵β細胞の脱分化が亢進してα細胞になることが知られているが、Tsc2ノックアウトマウスの膵島では、高血糖以前の段階で脱分化が始まっていた。膵β細胞不全の治療評価として、「脱分化抑制」を考慮しつつ、今後検討を重ねたいと考えている。
2: おおむね順調に進展している
GCN2欠損マウスを用いた解析により、今回SESN2を治療標的として同定することに成功した。今後は膵β細胞におけるSESN2の発現や活性化を調節する抗糖尿病治療薬について解析を進めたい。また、Tsc2ノックアウトマウスを用いた解析では、膵β細胞における脱分化が確認され、こちらについても今後治療標的として十分有用な因子と考えている。
GCN2ノックアウトマウスを用いた解析では、膵島におけるSESN2の発現量低下が膵β細胞不全の原因と考えられた。今後は抗糖尿病治療薬によってSESN2の発現量が回復するかどうかについて検討を進めていく予定である。またTsc2ノックアウトマウスに関しては、早期からの脱分化を抑制するような薬剤を同定することを目標として、各種解析を行っていく。
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