研究課題/領域番号 |
16K09804
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
松瀬 美智子 長崎大学, 原爆後障害医療研究所, 助教 (30533905)
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研究分担者 |
光武 範吏 長崎大学, 原爆後障害医療研究所, 教授 (50404215)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 甲状腺癌 / TERT |
研究実績の概要 |
TERT mRNAと甲状腺乳頭癌の予後 TERTは正常な体細胞では発現が認められないが、TERTプロモーター変異により転写因子の新たな結合領域ができることでTERTの転写が活性化されると考えられている。この変異の有無とmRNAの発現量との関連を検討したところ、全ての変異陽性PTC症例でmRNAの発現を認めた。しかし変異陰性症例の中にもmRNAが発現している症例があることがわかった。さらにこれらの症例はmRNA発現陰性症例と比較して無病生存が有意に短いことがわかり、TERT mRNA発現もPTCの新たな分子マーカーとして有用である可能性が示唆された(論文投稿中)。さらに興味深いことに、TERT変異は年齢と非常に強い相関があることがわかっていたが、上述した変異陰性TERT mRNA高発現症例はむしろ若年者に多く、予後予測マーカーとして高齢者ではTERT変異、若年者ではTERT発現が有用であることが示唆された。
TERTプロモーター領域におけるDNAのメチル化とmRNAの発現 近年、癌におけるTERTの発現亢進に関する新たなメカニズムとしてゲノム再編成やプロモーター領域のメチル化、遺伝子増幅が報告されている。TERTプロモーター変異が検出されなかった症例のうちmRNAの発現を認めた症例ではこの領域のDNAのメチル化がTERTの発現亢進に関与しているのか検討したところ、発現量の高い症例でこの領域の高メチル化を確認した。現在、メチル化と悪性度、予後との関連を検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
TERT プロモーター変異に加えてTERT mRNA発現もPTCの新たな分子マーカーとして有用であることを明らかにすることができた(論文投稿中)。さらにTERTプロモーター領域におけるDNAのメチル化とmRNAの発現との関連を明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに申請者らは、TERTプロモーター変異は甲状腺乳頭癌の悪性度・予後とよく相関するマーカーであることを報告したが、さらなる解析の結果からPTCにおいてTERTプロモーター変異は同一腫瘍組織内の一部の癌細胞にしか存在しないことが明らかとなった。また、通常のシークエンス解析では検出できないような、変異陽性癌細胞が10%以下の症例もあることが分かった。この変異の有無を術前に検討するためには、穿刺吸引細胞診と組み合わせる必要があるが、上述した理由から検体を採取する際に、変異陽性癌細胞が採取できない可能性がある。TERTプロモーター変異やmRNAの発現を術前診断における分子マーカーの1つとして利用可能か検討するため、術前の細胞診検体及び対応する術後の検体を用いてこれを解析し、その一致率を比較する。すでに核酸蛍光プローブとdroplet digital PCRを組合せ、高感度に変異やmRNAの発現を検出できる方法を確立している。また、手術検体を用いたin situ hybridizationを行い、変異やmRNAの発現のある細胞の腫瘍内分布の検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
甲状腺癌におけるTERTの機能について検討する予定であったが、TERTプロモーター変異のクローナリティやTERT mRNAの発現について新たな知見が得られたため、この解析を行った。このため、TERTの機能解析を次年度に行うこととし、未使用額はその経費に充てることとしたい。
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