研究課題/領域番号 |
16K09809
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
佐藤 航 埼玉医科大学, 医学部, 助手 (10772783)
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研究分担者 |
池田 和博 埼玉医科大学, 医学部, 講師 (30343461)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | エストロゲン / 治療薬耐性 / 女性がん |
研究実績の概要 |
乳がんの内分泌療法としてエストロゲン受容体に対する阻害剤(タモキシフェンなど)やエストロゲン産生をブロックするアロマターゼ阻害剤などが臨床応用されており、効果を発揮している。しかしながらこれらの薬剤の長期投与によって耐性を獲得するがんが生じることが問題となっており、この様な耐性がんに対して有効な治療薬が存在しない。これらの状況を克服するには、エストロゲン応答性の特異性、内分泌療法に対する反応性、ならびにエストロゲン依存性から非依存性への増殖機構を獲得する過程におけるスイッチングのメカニズムを明らかにする必要がある。 本研究では申請者らが独自に同定したエストロゲン応答遺伝子であるEfpとEBAG9を標的として乳がん、子宮がんなどの女性がんにおける役割の解析を進めた。Efpは乳がんにおいて過剰発現し、細胞周期抑制因子14-3-3σのタンパク質分解により細胞増殖を促し、治療標的となることを示してきており、本研究により、新たに子宮内膜がん細胞においてEfpが発現していることを示し、Efpの発現抑制によって子宮内膜がん細胞の増殖が抑制されることが明らかになった。また、EBAG9は乳がん、卵巣がん、肝細胞がん、腎細胞がん、前立腺がん、膀胱がんなどにおいて発現が上昇していることが、当研究グループを含め国内外の他のグループからも報告されている。本研究においてEBAG9の機能解析を行った。さらに、トランスクリプトーム解析などから新規エストロゲン応答遺伝子の探索を行った。これらの解析により、エストロゲンシグナル経路において、ERの下流に位置するエストロゲン応答遺伝子の発現制御、機能、組織特異性などを明らかにし、乳がん、子宮体がんの新しい分子標的の同定と診断・治療法への応用について検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
乳がん、子宮体がんのエストロゲン応答性と内分泌治療薬に対する反応性を解析するため、ホルモン感受性ならびに不応性の乳がん、子宮体がんの細胞株を用いてERα、ERβ、PR、ARをはじめとするステロイドホルモン受容体ならびにエストロゲン応答遺伝子の発現量を解析した。エストロゲン応答遺伝子としては申請者らが独自に同定・単離し、がんにおける作用を報告してきたEfp、EBAG9に焦点をあてた解析を進めた。さらに、トランスクリプトーム解析を活用して新規エストロゲン応答遺伝子の候補を探索した。Efp、EBAG9は乳がんの増殖・悪性化に関わるメカニズムが示唆されており、ステロイドホルモンに対する反応・応答性に焦点を当てたがん細胞機能と遺伝子発現、蛋白質発現の変化を検討した。Efpは細胞周期のブレーキ役である14-3-3σのユビキチン修飾に関わるE3リガーゼであり、分解を促進することによって乳がんの増殖に関わっていることが知られている。そこで、14-3-3σ mRNAと蛋白質の発現量を解析し、がん細胞増殖との関連を検討した。これらより、おおむね順調に研究が進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の解析を引き続き進める。特に、ERαを発現し、エストロゲン感受性である乳がんMCF-7細胞または子宮がんIshikawa細胞と、ERαを発現しない乳がんMDA-MB-231細胞または子宮がんHEC-1A細胞を内分泌療法抵抗性の女性がん細胞モデルとして利用し、解析を行う。エストロゲン応答遺伝子としては申請者らが独自に同定・単離し、がんにおける作用を報告してきたEfp、EBAG9の機能解析をさらに発展させる。Efpに関しては、14-3-3σ mRNAと蛋白質の発現量を解析し、Efpによる分解制御が、細胞のホルモン感受性と関連するか否か、検討する。EBAG9に関しては、がん細胞でのEBAG9の発現はがん細胞自身の移動能を促進し、転移や悪性化に関与していること、一方で、宿主側で発現するEBAG9はCD8陽性T細胞における細胞傷害性の制御を介してがん免疫に関わっていることを当研究グループで示しており、本研究では、EBAG9の発現がもたらす微小環境変化と腫瘍増殖に焦点を当てた解析を行う。EBAG9の過剰発現系とノックダウン系を構築し、細胞周期、細胞増殖、アポトーシス、移動能、上皮間葉移行(EMT)に対する影響を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
内分泌療法抵抗性のがん細胞株の作製に関する条件を見直すことにより、効率よく細胞株を作出し、維持することが可能になった。また、遺伝子発現解析に用いる定量的PCRのキット、遺伝子ノックダウンに用いるsiRNAやトランスフェクション試薬などの検討により、当初予定よりも消耗品が減少した。
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次年度使用額の使用計画 |
トランスクリプトームの解析によって明らかにされる候補遺伝子について、ホルモン、細胞増殖因子、サイトカイン、低酸素応答シグナルなども対象として加え、より広い解析を行う。それに伴い、過剰発現系やノックダウン系、さらには実験動物モデル系を用いた解析を拡充する。これらの解析により、次年度使用額を使用する。
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