研究課題/領域番号 |
16K09811
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
近藤 琢磨 杏林大学, 医学部, 講師 (60431368)
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研究分担者 |
石田 均 杏林大学, 医学部, 教授 (80212893)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | インスリン分泌 / グルココルチコイド / β細胞 / 構成性分泌経路 / 調節性分泌経路 / 炎症性サイトカイン / グルコルチコイド受容体 |
研究実績の概要 |
慢性炎症などの細胞外ストレスによりインスリン分泌低下を認める一方、抗炎症作用を有するグルココルチコイドは逆にインスリン分泌不全をもたらすことが指摘されている。その詳細な機序は十分に解明されていないため、本研究ではグルココルチコイド刺激によるβ細胞機能(インスリン分泌能)への直接的影響を検証している。 本年度は、ステロイド慢性投与による濃度別影響をさらに詳細に検討した。膵β細胞株MIN6細胞を用いて、相対的低濃度30nM、中等度濃度300nM、ヒトにおいてステロイドパルス療法に近い高濃度3000nMのデキサメサゾンで24時間刺激し、GR阻害剤(RU486)を用いてGR経路によるインスリン等の発現及び分泌に与える影響を検討した。デキサメタゾン30~3000nMによるインスリン遺伝子発現の変化は、いずれもRU486により解除されたが、高濃度培養下でのインスリン分泌抑制効果は同阻害薬で解除されなかった。さらに、炎症性サイトカインとして知られているMCP-1とVEGFの遺伝子発現ならびに分泌も30~3000nMデキサメタゾンで共に抑制されたが、高濃度培養下での抑制はMCP-1分泌以外GR阻害剤添加により解除されなかった。調節性分泌経路への影響を検討する目的でKCl刺激を行ったところ、高濃度デキサメタゾンでのインスリン分泌抑制は認められなかった。一方、プロインスリン/インスリン分泌比および炎症性サイトカイン分泌の抑制は、KCl刺激に関わらず同様に認められ、ともにRU486で解除されなかった。 総括として、糖質コルチコイドは膵β細胞の核内に存在するGRを介して、インスリンや炎症性サイトカイン遺伝子の発現を変化させる。一方、高濃度糖質コルチコイドはGR以外の細胞内情報伝達経路を介した構成性分泌経路の抑制効果を認めていることから、non-genomicな分泌調節経路の存在が新たに示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度はグルココルチコイド慢性投与による膵β細胞機能に与える直接的影響を先行してより詳細に検討するため、膵β細胞株を用いた実験を優先させて行ってきた。その結果、グルココルチコイド受容体(GR)を介さないインスリンならびに炎症性サイトカインの分泌抑制効果が明らかとなった。この現象の基盤にある分子学的メカニズムをさらに検討する目的で、KCLを用いて調節系経路への影響を評価し、さらに構成性分泌経路への影響を確認する目的でプロインスリン/インスリン分泌比を検討した。以上のことから、細胞実験に関して、追試を含めた結果の確認や新たな検討をするのに予想以上の時間を要した。 さらに、コルチコステロン徐放剤を用いた動物実験の検討において、異なる投与量での検討を計画する必要が生じてきたため、その条件設定に時間を要していた。 まとめると、当初の予定より細胞実験での検討に重点を置き詳細に検討したこと、条件設定後に動物実験の本実験を開始していることがやや遅れている理由である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの実験結果で得た興味深い知見をさらに考察していくため、細胞実験での検討に重点を置き最終年度の研究を推進していく。グルココルチコイドによるインスリン分泌調節機構への詳細な検討を行っていく予定である。このため、大学院生、研究分担者との共同のもと、実験の分担をそれぞれ増やすことで対応していく予定である。 遅れている動物実験については、マウスの購入やコルチコステロン徐放剤投与の条件設定を速やかに行い、購入マウスを増やすなどして実験データの収集期間の短縮を図っていくことを検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 実験結果から得られた興味深い知見をより詳細に検討するために細胞実験による検討事項の追加と追試に時間を要し、また新たな実験条件設定が必要となり動物実験の進行が遅れている。そのため、関連した購入費の使用に遅れがでたため、その分の実験用に次年度に使用額が生じた。 (使用計画) 追加で行っている細胞実験の試薬等の物品費が次年度も必要である。また、動物実験の遅れがあるため、今年度購入した実体顕微鏡に膵島単離実験を進めていく予定である。そのため、膵島単離に必要な試薬等の消耗品を購入する予定である。また、マウスの購入・飼育・エサ費用が次年度も遅れて必要であり、さらにin vivo実験に必要なコルコステロン徐放剤などの試薬の使用量が当初の計画より増加しているため、次年度の消耗品費を用いて購入する予定である。
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