研究課題/領域番号 |
16K09820
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
一瀬 白帝 山形大学, 医学部, 教授 (10241689)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 血栓止血 / 自己免疫疾患 / 致死性出血病 / 抗第XIII/13因子抗体 / 厚労省指定難病 |
研究実績の概要 |
多数の自己免疫性出血病XIII/13(autoimmune hemorrhaphilia 13, AH13と略す)症例の血漿・血清を用いて、抗第XIII因子(FXIII)-A抗体を詳細に解析した。 1.AH13症例の自己抗体のエピトープマッピング;1)症例の抗FXIII-A抗体の解析:mAbの研究で開発した方法で分析した。2)症例の抗FXIII-B抗体の解析:上述したように抗FXIII-A抗体と同様に解析した。3)抗体標的配列の同定:症例の血漿・血清とFXIII-A、FXIII-Bを混合して免疫複合体を形成させ、各種のタンパク質分解酵素によって切断したペプチドを質量分析によって同定し、切断から保護された部位をエピトープの候補とした。FXIII-Aアミノ酸配列からデザインした合成ペプチドを作製して、AH13症例の抗体が結合するか否か、ELISAやドットブロット法などにより判定して、各症例の抗体のエピトープを大まかに決定した。 2.基質認識を阻害する機能性抗体の検索と解析;FXIIIaのフィブリン/フィブリノゲンへの結合に対する阻害抗体、フィブリン/フィブリノゲンγ鎖の架橋結合/2量体化、フィブリン/フィブリノゲンα鎖の架橋結合/多量体化、フィブリン/フィブリノゲンα鎖とα2-PIとの架橋結合などを特異的に阻害するタイプについて、タンパク質化学的実験にて詳細に解析した。 3.非機能性抗体の解析;FXIII抗原抗体複合体を形成してそのクリアランスが亢進している抗体を持つAH13症例も少なくない。このような症例ではFXIII活性のみならずFXIII、FXIII-Aなどの抗原量が激減している。そこで、結合はするがFXIII機能を阻害しない抗体をdot blot、ELISAなどの免疫学的アッセイを組み合わせて検出し、その性状を解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の第一の目的は、自己免疫性出血病XIII/13の原因である抗F13自己抗体の作用機序を解明することである。血漿検体を如何に綿密に分析してもポリクローンあるいはオリゴクローン抗体(混合状態)であるから、それぞれの単クローン抗体の性状を精確に解明することは不可能である。そこで、我々は富山大学の小澤龍彦先生の協力の下に、ある新規AH13症例のリンパ球を分離し、ISAAC法により18種類に上るヒト抗FXIII-A単クローン抗体を得た。これは世界初の快挙である。既にそれらの機能的性状、免疫学的性状を解析し、3群に分類しつつある。現在、これらの抗体がFXIII-A分子のどの部分に結合するかを追究しつつあり、抗体結合部位とその抗体が示す阻害特性を対応させることによって、逆にFXIII-Aの構造機能連関を明らかにすることが可能になる。従って、本研究では、抗体の作用機序を解明すると共に、FXIII分子の科学的性状を解明することに成功しつつある。
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今後の研究の推進方策 |
1.抗FXIII-B自己抗体を生成する根本的な原因(免疫寛容の破綻)の追究を、新規に発症する症例の検体を用いて継続する。 2.ヒト単クローン抗体のクローニングとエピトープマッピング;AH13症例の末梢血を用いて、富山大学の小澤龍彦先生との共同研究により、マイクロウェルアレイチップを用いて生きたリンパ球を網羅的に解析し、低頻度で存在する抗原特異的リンパ球を検出して抗FXIII-B特異的抗体を作製する。得られた抗体を各種のマウスモノクローナル抗体やAH13症例の自己抗体と共にそれぞれのエピトープの詳細な解析と比較に用いる。なお、多くのAH13症例に共通な「ユニバーサルエピトープ」の存在が複数推定されている。
研究が早期に目標を達成した場合や計画通りに進まない場合の対応: 1.AH13症例や健常者に、FXIII-Aを分解する酵素活性を持つ自己抗体や、自然抗FXIII抗体が存在する可能性を追究する。特に、FXIII-Bは10個の寿司ドメインからなり、また、寿司ドメインをコードしているFXIII-B以外の52の遺伝子産物と交叉反応性を持つ自己抗体の存在が予想されるので、それらを検索する。 2.ヒト組換えFXIII-A、FXIII-BやA2B2四量体とマウスやヒトのmAbの免疫複合体やmAb自体を、野生型やFXIII-A、FXIII-Bノックアウトマウスに投与して、クリアランスを計測し、抗体のタイプや標的部位の相違との関連を検索する。また、培養細胞との結合実験により、クリアランス受容体の同定へ研究を進展させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
18種類のヒトFXIII-A単クローン抗体を得ることができたので、それらのF13A分子の標的部位を同定する必要がある。まず、抗体が結合した部位が酵素による消化から保護されることで、大まかな結合部位を推定し(プロテクションアッセイ)、次にその部位をカバーする多数のペプチドを合成して、抗体の結合を阻害するか否かによって結合部位を突き止める(コンペティションアッセイ)。後者を実施するために多数のペプチドの合成をメーカーに依頼せねばならないので、平成28年度の予算の一部を残して、平成29年度の予算と合算することにした。
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次年度使用額の使用計画 |
上述した理由により、残した平成28年度の予算と平成29年度の新しい予算を合わせて、多数の合成ペプチドの購入に充当する。
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