研究課題/領域番号 |
16K09822
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
齋藤 孔良 新潟大学, 医歯学系, 助教 (30460356)
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研究分担者 |
藤井 雅寛 新潟大学, 医歯学系, 教授 (30183099)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | RASAL3 / RasGAP / 血液細胞 / 血液系腫瘍 |
研究実績の概要 |
Rasは様々な細胞系列において細胞増殖を促進し、その異常活性化が数多くの癌の発症に関与する。Ras経路はRasGAPによって負に制御されている。近年、癌にお けるRas自身の異常に加えて、RasGAPの異常も報告されている。従って、RasGAPの機能解析は癌化の分子機構を解明する上で重要な課題である。研究代表者のグループは、血液細胞に特異的に発現する新規のRasGAPとしてRASAL3を同定した。本研究では、血液細胞におけるRASAL3の機能を明らかにする。 マウスにα-GalCer(アルファ-ガラクトシルセラミド)を投与すると、一過性に急性肝炎を発症する。我々は、これまでに、この急性肝炎がRASAL3のノックアウトマウスでは軽減することを報告した(参考文献)。この急性肝炎の軽減は、NKT細胞数の低下およびIL-4の産生低下と相関していた。NKTとIL-4は共に、このモデルマウスにおける急性肝炎の発症に関与することが報告されている。この急性肝炎におけるRASAL3の役割を明らかにするために、網羅的遺伝子発現解析を実施した。RASAL3ノックアウトマウスから調製した脾臓では、ストレスによって誘導される複数の遺伝子発現が昂進していた。例えば、チトクロームP450遺伝子群、グルタチオンSトランスフェラーゼ遺伝子群、および脂質代謝に関与する遺伝子群であった。従って、RASAL3はストレス誘導性遺伝子群の発現を抑制することが示唆された。RASAL3ノックアウトマウスでは、NKT細胞の数および機能が低下していることから、NKT細胞が脾臓におけるストレス応答遺伝子群の制御に関与する可能性もある。全身性のRASAL3のノックアウトマウスは、約2年間、正常に発育し、免疫系以外には大きな異常は観察されなかった。従って、RASAL3はマウスの寿命には影響を与えないことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
RASAL3ノックアウトマウスの繁殖が計画よりも遅れたため、その影響でマウスの病理解析が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の展望 ①Ras経路は腫瘍性増殖を含む様々な生体内機能に関与している。RasGAP はRas経路の抑制因子であり、これまでに、複数のRasGAPが同定されている。RASAL3は血液細胞に特異的な唯一のRasGAPである。従って、RASAL3の機能解析は血液細胞におけるRas経路の機能を明らかにする上で、重要な課題の1つである。従って、RASAL3のノックアウトマウスは、血液細胞におけるRas経路の機能を調べる上で有用な道具を提供する。 ②成人T細胞白血病の発症には、Tax1による細胞機能の撹乱が深く関与している。RASAL3は、Tax1によるNFAT経路を介した遺伝子発現の制御に関与することが示唆された。 ③Ras経路は腫瘍性疾患を始めとして様々な疾患において異常が観察されている。また、Ras経路を標的とした治療薬の開発が進められている。従って、RASAL3はRasが活性化された血液腫瘍性において、新たな治療標的になることが期待できる。 ④RASAL3がNFAT経路を抑制していることが示唆された。NFATはT細胞増殖因子であるIL-2を含む様々な細胞遺伝子の発現を制御する。従って、RASAL3はNFAT経路の抑制因子として、細胞機能を制御することが示唆された。
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次年度使用額が生じた理由 |
マウスの繁殖の遅れにより予定通り遂行できなかった残りの病理学的解析を次年度に行うための予算が必要だった。
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