研究課題
本年度は、我々が作製したαIIbβ3を恒常的に活性化する細胞内変異αIIb(R995W)ノックイン(KI)マウスに関する検討を中心に行った。我々はホモKIマウスにおいて血小板機能の低下を示すデータを得ていたが、より生体内に近い条件下における血小板機能を検討するため、流動条件下でのコラーゲン上での接着および凝集塊形成を検討した。その結果、ホモKIマウスにおいてはWTやヘテロKIマウスに比べコラーゲン上への接着能には大きな障害は認めなったが、血小板凝集形成に著明な障害を認めた。そこで、腸間膜動脈を用いてFeCl3による強い血管障害時の血栓形成能についての検討を行ったところ、やはりホモKIマウスでは血栓形成の著明な低下を認めた。これらの結果からαIIbβ3の恒常的活性化変異は血小板機能障害を生じることも明らかとなった。また我々は小児期より強い出血症状を認める患者検体の検討から、本症例にCalDAG-GEFIの遺伝子異常が存在することを明らかにしたが、本症例のインテグリン活性化障害のメカニズムについて我々の開発したvelocity assayを用いて詳細な検討と行った。その結果、本症例ではアゴニストで刺激後、インテグリンαIIbβ3の活性化の速度が正常例と比べて、極めて低下していることが明らかとなった。一方、同様のインテグリン活性化異常をきたすP2Y12欠損症においては、αIIbβ3活性化の速度は障害されていないが、時間とともに活性化の早期に減弱し、αIIbβ3活性化を維持できなかった。CalDAG-GEFI欠損症では、強い出血傾向を認めるのに対し、P2Y12欠損症における出血傾向は軽度であり、その原因の一部はαIIbβ3活性化の速度に依存することが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
現在のところ、変異導入マウスを用いた実験はほぼ予定どおり進行している。
本年度も引き続き、αIIb(R995W)ノックイン(KI)マウスを用いた検討およびインテグリン活性化機構に関する解析を行う。KIマウスにおいては、特に血小板産生障害の機構およびインテグリンαIIbβ3発現機構の障害に関する検討を中心に行うことを予定している。具体的にはKIマウスおよびβ3欠損マウスにおける骨髄巨核球数、ploidy、血小板および巨核球形態、巨核球系コロニー形成能の検討を行う。またαIIbβ3発現の低下に関し、そのメカニズムに関する検討を行う。インテグリン活性化機構に関しては、CalDAG-GEFI欠損例とともに我々は最近、強い出血傾向と白血球数異常を伴う症例を検討している。本例においてインテグリンαIIbβ3発現は正常であり、またCalDAG-GEFI発現にも異常を認めないが、αIIbβ3の活性化は著明に障害されており、活性化機構の障害が予想される。本症例におけるαIIbβ3活性化障害の原因を明らかにすることを予定している。
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