先天性血小板減少症は様々な遺伝子異常によって引き起こされる疾患であり、これまでに19の原因遺伝子が同定されている。この中にはRUNX1やANKRD26のように造血器腫瘍の発症と関連している遺伝子やMYH9のように眼や耳などの感覚器障害および腎機能障害をきたす遺伝子がある。このことは、先天性血小板減少症の原因遺伝子を同定する研究を行うことで、血小板減少のみならず様々な病態と関連している遺伝子が同定できる可能性が高いことを示唆している。しかしながら、未だ先天性血小板減少症の約半数はその原因遺伝子が不明のままである。 今回、申請者は、常染色体優性遺伝形式をとっている先天性血小板減少症の一大家系を見出した。この家系の最大の特徴は、血小板減少患者に若年時に動脈および静脈血栓症が多発していることにある。患者血小板の機能解析では通常の生理的アゴニストによる血小板凝集能や顆粒蛋白発現には異常はないが、一部のアゴニストに対して血小板凝集が異常に亢進していた。また、骨髄では巨核球増多が見られた。これらの所見から、この家系では特定の遺伝子変異によって血小板が恒常的に活性化されるために網内系で活性化血小板が除去されて血小板減少が生じ、さらに残存した活性化血小板による血栓性素因が生じているのではないかとの仮説を立てた。そこで、本家系の原因遺伝子の同定を目的として、家系内の血小板減少患者および血小板数正常者からDNAを抽出し、次世代シークエンサーで解析を行った。その結果、血小板減少患者群にのみ存在する特定のG protein-coupled receptor gene (GPR) 25遺伝子に変異を見出した。この候補遺伝子の解析により、新たな血小板減少症の病態が解明できるとともに血栓形成の新たな機構が明らかにできることが期待される。
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