研究課題
本研究計画は、加齢とともに発症率が増加する骨髄系腫瘍である骨髄異形成症候群(MDS)を中心に、家族性MDS患者から樹立したiPS細胞、およびMDS患者の時系列サンプルを用い、経時的に遺伝子異常を解析してMDS発症に関与するエイジング因子を同定し、時間的・環境因子を加味した分子発症機序の解明を目指すものである。研究へのインフォームド・コンセントが得られた患者の骨髄液または末梢血を採取し、DNA・RNAおよびCD34陽性細胞RNAを抽出した。また同時に血液疾患に関する家族歴を詳細に聴取した。研究開始から新たに得られた検体数は約250例に達し、既存のものも含めると、家族性造血器腫瘍家系が疑われる家系は20家系に達した。このような症例に対し、RUNX1、CEBPA、GATA2、DDX41の変異解析を行っているが、いずれの変異も認めない家系が大半を占めており、未知の原因遺伝子が存在する可能性が示唆される。このような症例の責任遺伝子変異を同定するため、骨髄系腫瘍に高頻度に認められる遺伝子を集めたMyeloid Panelによる解析を開始した。変異が同定された家系のうち、RUNX1変異4家系について詳細な検討を行った。RUNX1変異を有する症例からiPS細胞を樹立し、iPS-SAC法で造血前駆細胞まで分化させたところ、正常と比較して有意にCD34陽性細胞が減少していた。また、このiPS細胞に正常RUNX1を導入すると、CD34陽性細胞の減少がレスキューされた。このことは、RUNX1変異単独ですでに造血幹細胞の障害が生じていることを示している。次に、RUNX1変異と協調してMDS発症に寄与する付加的遺伝子変異をアレイ解析により網羅的に検索した。同定された中からGene Yに着目した。RUNX1変異とGene Yをマウス造血幹細胞に導入して骨髄移植を行ったところ、MDSを発症した。さらに、RUNX1変異iPS細胞から誘導したCD34陽性細胞にGene Yを導入し、MDS発症プロセスについて検討中である。
2: おおむね順調に進展している
この1年、順調に骨髄系造血器腫瘍患者の症例数を積み重ね、検体を収集した。その中で、以外に家族性造血器腫瘍家系が多数存在しており、累積で20家系に達した。しかし最も高頻度に認められるRUNX1変異は4家系しか同定されなかったことから、さらなる遺伝子変異解析を進めている。また分子病態の解明のためのiPS細胞樹立およびマウス実験系は順調に進行しており、RUNX1変異を有する造血幹細胞がMDSなどの造血器腫瘍を発症していく過程の追跡調査を行っている。
引き続き症例を集積し、家族性造血器腫瘍家系を検索する。原因遺伝子異常の解析は、未知のものを念頭に次世代シークエンサーを用いた解析を行う。骨髄系腫瘍に高頻度に認められる遺伝子を集めたMyeloid Panelによる解析を開始した。経時的な変化の追跡には、モデルマウスや家族性MDS症例から樹立したiPS細胞を分化させ、観察およびサンプリングを行い、進行に関与する遺伝子異常の同定を試みる。
(理由)残額が少額であり(13,896円)、必要な物品を購入できなかったため。(使用計画)新年度の配分額と合算し、全て使用する。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (17件) (うち国際学会 5件、 招待講演 1件)
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