研究実績の概要 |
成人T細胞白血病 (ATL) はHTLV-1の感染によって引き起こされ、長期の潜伏期間・クロナールエボルーションを経て、最終的にモノクロナールかつ抗がん剤抵抗性の高いATL細胞となる。我々はATLに関し、癌幹細胞の存在を仮定し、ATLのマウスモデルであるTaxトランスジェニックマウスを用いてATL癌幹細胞(ATLSCs)の同定に成功した (Blood. 2009)。そこで本研究では,京都大学の松岡らによって作製されたHBZトランスジェニックマウス(HBZ-Tg)を用いて、ATLSCsの同定を試み1) ATLSCs仮説の普遍性を高め、2) ATLSCs及び微小環境の分子基盤を明らかにし、3) 新規治療標的となる分子の探索を行うことを本研究の目的とした。 その結果,HBZ-Tg由来の腫瘍細胞 (Ht48)にはSP細胞が存在し,CD4-/CD8-/CD117+陽性分画に自己複製能を有するATLSCs分画が存在していることを明らかにした (Oncotarget. 2016)。ATLSCsの網羅的遺伝子発現解析から造血幹細胞やEarly T-cell precursorと類似の遺伝子発現パターンを有していることが示された。そこで,ATLSCs及びその微小環境に発現しているSCF/c-kitシグナリングを中和抗体による阻害実験や変異マウスを用いることで,in vitro及びin vivoでATLの進展を遅延させることに成功した。さらに微小環境のサイトカイン環境を解析し,CCL3, CCL4, IL-4, IL-9, and IL-10などのサイトカインがATLSCsの分化・発生・維持に必要であることも明らかにした (投稿準備中)。本研究課題により, ATL癌幹細胞仮説が実証され,その微小環境等についても明らかになった。ヒトでのATL癌幹細胞のさらなる解析と標的治療薬の開発が期待される。
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