研究課題
本研究においては、ヒストンH3リジン27番のトリメチル化(H3K27me3)の制御異常が骨髄腫の発症や薬剤耐性に与える影響を明らかにする事を目的とし、H3K27me3の誘導酵素であるEZH2とそのホモログであるEZH1、またH3K27me3の脱メチル化酵素UTXの、骨髄腫細胞における生物学的意義の解明と、骨髄腫の薬剤耐性を克服するための分子基盤の構築を行っている。これまでに我々は、EZH2/EZH1の共阻害剤であるUNC1999の標的遺伝子の一つであるNR4A1の、骨髄腫におけるがん抑制遺伝子としての機能を解析した。NR4A1はMycを負に制御するため、UNC1999によってNR4A1が脱抑制してMycが抑制されることを見出した。また、プロテアソーム阻害剤とUNC1999の併用療法の抗腫瘍効果のメカニズムとして、プロテアソーム阻害剤がEZH2を転写レベルで抑制するものの、EZH1が残存してH3K27me3は保たれるが、UNC1999との併用療法では残存したEZH1の機能も抑制することが重要であることを示した。更にEZH2の発現とプロテアソーム阻害剤ボルテゾミブへの反応性を臨床試験におけるpublic databaseで検討したところ、骨髄腫細胞のEZH2発現が高い症例ほどボルテゾミブへの反応が不良であることを見出した。これはEZH2が薬剤耐性に関与する可能性を示したものであり、実際に骨髄腫細胞株にEZH2を強制発現するとボルテゾミブ耐性になることを実験により明らかにした。これらの成果はClinical Cancer Research誌に2017年に掲載された。また我々は、成熟B細胞のみでUTXのノックアウトとBRAF活性化変異が起こるコンパウンドマウスを解析しているが、これらのマウスは形質細胞を含むB細胞性腫瘍を発症している。現在、詳細な分子メカニズム解析を行っている。
2: おおむね順調に進展している
平成29年度以降に計画していたUNC1999とボルテゾミブの併用療法の分子メカニズム解析と、ボルテゾミブ耐性化におけるEZH2の関与の検証とUNC1999の耐性解除については、ほぼ順調に終了している。形質細胞腫瘍マウスの詳細な解析とこのマウスモデルに対するUNC1999やボルテゾミブの治療に関しては現在進行中である。
形質細胞腫瘍マウスの詳細な解析、特に腫瘍発症のメカニズムを明らかにするため、網羅的エピゲノム・遺伝子発現解析が進行中である。また治療モデルの作製に向けて、形質細胞腫瘍の二次移植やin vitroでの継代を行っている。治療モデルが確立されれば、UNC1999やボルテゾミブ、その他のエピジェネティック治療などを行い、新規治療法の確立を目指したい。
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Clinical Cancer Research
巻: 23(16) ページ: 4817-4830
10.1158/1078-0432.CCR-16-2735