研究課題
急性リンパ性白血病は予後不良の白血病であり、長期生存率が20-40%と低く、細胞障害性の少ない分子標的薬の開発が急務である。そこで、本研究ではT細胞性急性リンパ性白血病 (T-ALL) 細胞株において、クロマチンタンパク質をターゲットとするshRNAライブラリーを用いたRNAiスクリーニングを行い、T-ALLの分子標的薬のシーズとなる因子群を同定する。また、得られた因子に関しては生化学的な解析を行い、創薬の基盤となる情報 (すなわち、どの機能ドメインを標的とした場合に効果的な機能阻害が起こるか?) を収集する。平成28年度は2種類のT-ALL細胞株 (Jurkat、T-ALL1) を用いたスクリーニングにより同定した2種類の候補遺伝子(METTL18およびにSHPRH)について解析を進めた。METTL18は機能解析の進んでいない新規メチル基転移酵素であり、このノックダウンは正常細胞(BJ-hTERT)と比較し、選択的にT-ALL細胞の増殖を抑制し、その感受性はMETTL18の発現量と相関した。さらに、shRNAの特性を検証するために、Crispr法によりMETTL18遺伝子破壊を試み、METTL18阻害の低感受性細胞株(Jurkat)でのみ破壊株を複数樹立に成功した。この結果は、shRNAの結果と一致する。SHPRH はDNA修復や転写制御に関与するユビキチン化酵素であり、そのshRNAによる阻害はBJ-hTERT細胞よりも選択的にT-ALL細胞の増殖を抑制した。以上の結果は、これら遺伝子がT-ALL創薬の標的候補となり得る可能性を示唆しており、今後、その分子機構を明らかにする予定である。
3: やや遅れている
当初の計画では、8種類の T-ALL/Lymphoma細胞株を用いた大規模のRNAiスクリーニングを予定していたが、幾つかの細胞株が ピューロマイシンに対する耐性が高い事、ウイルスによる遺伝子導入効率が低い等の理由により、遂行が困難であった。また、shRNA実験の結果を検証する方法としてCrispr inhibition 法を導入する予定であったが、これが機能しなかった。これらの対応策は、”今後の研究の推進方法”に記入する。小規模スクリーニングから得られた候補因子の検証は一般的なCrispr を用いる事により概ね予定通り遂行する事ができた。
1. 今後の推進方策得られた候補因子に対する低分子阻害剤が存在しないため、この実験は中止とし、本年度は候補因子の生化学的な解析と新規の候補遺伝子の同定(下記参照)を行う。2. 研究計画の変更あるいは研究を遂行する上での課題等Broad Institute からリンパ球系の白血病及びにリンパ腫を含む200種類以上の癌細胞株でのRNAiスクリーニングの結果が公開されている。そこで、大規模のRNAiスクリーニングの代改案として、このデータから癌種特異性等を考慮し、候補遺伝子を絞り込む予定である。Crispr inhibition が機能する遺伝子数はあまり多くない事、そして、これが転写開始領域のannotaionの不正確性に起因する事が報告された。そこで、CAGE (Cap Analysis of Gene Expression)を基に同定された転写開始領域に対するCrispr inhibitionコンストラクトを作成しテストする予定である。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件)
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