研究課題
今年度の研究で研究代表者らは、マウス造血幹細胞移植モデルを含む生体内外の実験系を利用し、造血幹細胞移植における血管内皮細胞のさらなる機能解明を進めた。今年度の実験で研究代表者らは、造血幹細胞移植におけるコンディショニングとして頻用される放射線照射が骨髄、あるいは胸腺等の組織中の血管内皮細胞で、アンジオクライン分子の一つであるepidermal growth factor-like domain 7 (Egfl7)の発現の増強、産生を促進することを明らかにした。これに加え、代表者らは、前年度までの研究で骨髄における造血幹細胞と血管内皮細胞、そして間葉系細胞等のニッチ細胞間相互作用の存在を示唆していたが、血管内皮に由来するEgfl7が、間葉系細胞に属するストローマ細胞からの、造血前駆細胞、未分化B細胞、初期前駆T細胞等の増殖を促進することが知られている造血因子、Flt-3 ligandの発現増強、産生増加のトリガーとして機能していることを明らかにした。この研究成果は、造血幹細胞移植におけるコンディショニングが、組織中の血管内皮細胞からの造血促進シグナル、そして胸腺中のT細胞分化を誘導しているとする、血管内皮の新しい機能を提示したこととなる。また代表者らは、血管内皮から産生される組織型プラスミノーゲンアクチベータ、ウロキナーゼ型PA、PA抑制因子、また一部のマトリックスメタロプロテアーゼ等のアンジオクライン分子が、マウス生体内造血を制御し、マクロファージ系細胞の分化、活性化を誘導していることも明らかにした。これらの研究成果を基礎として、現在、ウィルスベクターの投与や各種生理学的ストレスを使用し、生体外でのマウス及びヒト由来の血管内皮細胞の内皮造血転換の誘導を試みており、さらに造血幹細胞移植臨床における今年度までの研究成果の意義について、臨床検体を利用した解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
現在までの進捗状況として、研究代表者らは、造血幹細胞移植における血管内皮細胞の機能解明については、マウス造血幹細胞移植モデルの確立を経て、血管内皮細胞由来のアンジオクライン分子による造血制御機構、さらに血管内皮細胞と造血系細胞、間葉系細胞との間に展開されるクロストークに至るまで、研究協力員であった大学院生の博士論文を含む、今年度の複数の発表論文の中で、血管内皮、血管ニッチの機能と重要性を記載できたことから、当初の計画以上の研究の進展、そして業績を挙げることができたと考えている。ヒト及びマウス血管内皮細胞の内皮造血転換の誘導については、今年度までに、この現象を示唆する基礎データは得られており、また誘導に使用するウィルスベクターの作製もなされているが、マウス生体内外、あるいはヒト、マウス由来の細胞株、組織の実験系での確認作業を、現在進めている状況である。今年度までに得られた実験結果については、血管内皮細胞から分泌されるアンジオクライン分子群による間葉系幹細胞、間葉系ストローマ細胞群の動態、活性調節を通じ、造血幹細胞を含む造血系細胞動態が制御されているとする、研究計画の段階で立案された、血管内皮を中心とした造血制御機構の存在を支持する、当初の仮説に沿った内容であり、現在までのところ、来年度以降の研究展開についても、明確な修正点は特に見当たらず、申請時の研究計画を進めていくことになる。加えて代表者らは、今年度中から、血管内皮細胞中のAkt-mTOR経路やp42/p44 MAPキナーゼ関連因子活性の検出、測定技術の確立を進めている状況であり、来年度以降の研究計画の遂行については、手技、技術面でも十分な準備状況にあると考えて差し支えない。今年度に加えて、来年度の日本血液学会をはじめとして、これらの新しい技術を使用した研究成果についての情報発信も順次準備している状況にある。
来年度以降は、今年度の研究成果を基礎として、green fluorescent protein遺伝子改変マウス(GFPマウス)の骨髄細胞を用いた造血幹細胞移植モデルにおける、血管内皮系、あるいは間葉系細胞表面マーカー陽性の細胞群を共移植する群を設け、通常の造血幹細胞移植に対する優位性、また移植生着に対する有用性、有効性を確認する実験を進める。さらに生理学的ストレスへの曝露やウィルスベクターによるアンジオクライン因子の強制発現系等によるヒト及びマウス血管内皮細胞の内皮造血転換の誘導実験を進め、この系においては、生着の有無にかかわらず、造血幹細胞移植に関する各種パラメーターを解析すると共に、Akt-mTOR経路構成因子、p42/p44 MAPキナーゼ関連因子活性等の細胞内因子、アンジオクライン因子、血管内皮特異抗原、血球系マーカーの発現等についてウエスタンブロット法や免疫学的特殊染色を施行し、マウス生体内外の造血幹細胞移植における血管内皮細胞のさらなる機能解明を進める。また、今年度までに手技を確立したヒト臍帯由来血管内皮細胞及びマウス血管内皮細胞株、あるいはGFPマウス骨髄細胞中の血管内皮系細胞表面マーカー陽性の細胞群、さらにはこれらの細胞へのE4ORF1 遺伝子導入群を用いた生体外実験系を中心に、ウィルスベクターを使用したアンジオクライン因子、サイトカイン、ケモカインをはじめとする生体因子の強制発現系、ないしは様々なストレス条件下での血管内皮細胞、そして造血系細胞、造血・血管ニッチ細胞の動態、そして内皮造血転換の誘導とその確認を試みる。さらには、造血幹細胞移植モデルを使用し、成体マウス生体内における内皮造血転換の誘導とその確認を進めていくこととする。また来年度も、これまでの研究成果を中心に、学会発表や論文総説の発表を通じた、情報発信をより積極的に行っていくことを予定している。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 2件、 招待講演 5件) 図書 (2件)
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