研究課題/領域番号 |
16K09867
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
三瀬 節子 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 特任助教 (00269052)
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研究分担者 |
青木 和広 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 教授 (40272603)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 造血幹細胞移植 / マクロファージ / 骨代謝 / 脂肪細胞 / 骨芽細胞 / インフラマソーム / NF-kB |
研究実績の概要 |
転写因子RelA欠損型胎児肝臓細胞をdonorとして造血幹細胞移植を行うと、骨量の著しい減少に伴い、造血環境が悪化する。造血幹細胞移植の前処置として行われる全身放射線照射は、造血系細胞の大量の細胞死を引き起こし、間葉系幹細胞由来の細胞にもダメージを与える。骨髄内環境の修復におけるマクロファージの役割を明らかにするために、①マクロファージの死細胞やDAMPsに対する反応としてのインフラマソームの活性化におけるRelAの役割、②野生型骨髄細胞を移植した後の骨髄内環境の変化、③RelA欠損型と対照的に、移植後に野生型よりも骨量の減少が少ないSpred1/2欠損型骨髄細胞移植マウスの骨髄内環境、について調べ、以下の結果を得た。 ①RelA欠損型と野生型マクロファージ間でインフラマソームの活性化について比較した。RelA欠損型ではインフラマソームの構成成分であるNLRP3やpro-IL-1βの発現が低下するために、最終産物のIL-1βは低下するが、インフラマソームの活性化に伴い起こる細胞死 pyroptosisは亢進していた。 ②全身放射線照射+造血幹細胞移植を行うとdonorの骨髄細胞が野生型であっても、RelA欠損型ほどではないが、骨量の減少、特に海綿骨の減少が認められた。これは、移植後10日前後に間葉系幹細胞から過剰に脂肪細胞が分化する一方、同じ間葉系幹細胞から分化する骨芽細胞の分化が低下するためであることを明らかにした。 ③Tie2-CreによってSpred1/2を欠損させた骨髄細胞は野生型のものと比べ、donorとして移植した後の宿主マウスの骨量の減少が少ない。Spred1/2欠損骨髄細胞を移植したマウスでは移植後の脂肪細胞の分化が全く起きていなかった。 これらの結果から、全身放射線照射+造血幹細胞移植後の骨量の減少は、脂肪細胞の分化と関係しているように思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
28年度は、当初の予定では死細胞に対するRelA欠損型マクロファージの反応の解析とRelA欠損型胎児肝臓細胞の移植直後の解析を行う予定であった。 死細胞に対する反応に関しては、インフラマソームの活性化の解析に焦点を絞り解析した。その結果、インフラマソームの活性化の最終産物であるIL-1βの産生は低いが、それに伴い起こる細胞死が亢進していることを明らかにした。このことは、RelA欠損型マクロファージは、十分に死細胞を処理する前に細胞死を起こしてしまうことを表している。このことが骨髄内環境にどのような影響を与えているかについてこれから解析しなければならないが、解析すべき生体反応が限られてきたことは大きな進歩と考えている。 本年度はRelA欠損型移植マウスの移植直後の解析を行うはずであったが、それに関してまだ結論を出すまでに至らなかった。しかし、野生型骨髄細胞を移植しても、程度の差はあれ骨量の減少が見られることを明らかにした。このことは、造血幹細胞移植後の骨量の減少は、RelA欠損型に限ったことではなく、野生型マウスやヒトでも普遍的に起こり、本研究は骨髄移植後の骨量の減少を抑えるための治療につながると考えられる。 また、当初の目的にはなかったSpred1/2欠損マウスの解析を行った。このマウスでは、移植後の骨量の減少が野生型より低下し、脂肪細胞が減少していた。Spred1/2欠損マウスを用いることによって、骨髄移植後に骨量が大幅に減少するRelA欠損マウスとSpred1/2欠損マウスのマクロファージの機能をとを比較することによって、骨髄移植後の骨量の変化におけるマクロファージの役割をより容易に解析できるようになった。また、骨量の減少と脂肪細胞の分化には何らかの因果関係があることを示唆しており、脂肪細胞の分化に焦点を当てて解析する研究の方向性を見出すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
骨髄移植後の脂肪細胞の分化亢進の因子として、ROSに焦点を絞って解析する。ROSを候補とした理由は、放射線照射後に損傷を受けた細胞は多量のROSを発現すること、ROSは間葉系幹細胞から脂肪細胞を分化させること、ROSはマクロファージにおいてインフラマソームを活性化を引き起こすためである。 29年度は、骨髄内脂肪細胞の分化を誘導する因子として活性酸素(ROS)の動態を調べる。RelA欠損マウスの胎児肝臓細胞、Spred1/2欠損マウスの骨髄細胞を移植したマウスの移植直後の骨髄内の脂肪細胞の分化の程度と、mitoROXを用いてROSの産生量を定量化し、因果関係を明らかにする。 また、in vitroにおいて、RelA欠損型やSpred1/2欠損型のマクロファージの機能を明らかにするために、Crispr-CasシステムによってRelA欠損型、Spred1/2欠損型のマクロファージの細胞株を樹立する。これらの細胞を用いて、DAMPsがインフラマソームを活性化した際のROSの動態やpyroptosis、その誘導因子であるcaspase11やガスダミンDの動態を調べ、マクロファージのDAPMsに対する反応を明らかにする。その結果から、マクロファージによって脂肪細胞の分化を制御している因子の候補を絞り出す。
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