研究課題
平成28年度は、Cdkn2a欠損かつT細胞系列でポリコーム遺伝子を欠損するマウス(Cdkn2a-/-; Lck-cre; Ring1A-/-; Ring1B fl/flマウス)の胸腺において、DN3段階の細胞がT/B系列共存細胞に転換することから、この細胞を用いて転写因子の発現プロファイルやエピゲノム状態の変化を解析することを目的としていた。まず、DN3分画細胞を用いたマイクロアレイ解析を行ったところ、B細胞系列遺伝子の発現が上昇していたことから、B細胞系列遺伝子の発現抑制解除が確認された。しかし幹細胞もしくはT細胞系列遺伝子を含むその他の系列に関わる遺伝子の発現に変化は見られなかった。そこで、T前駆細胞において、ポリコーム遺伝子複合体とB細胞系列遺伝子の関与を調べるために、正常な胸腺細胞を用いてChIP-on-chip解析を行った。その結果、Pax5やEbf1といったB細胞系列遺伝子のプロモーター領域に対してポリコーム遺伝子複合体が結合していることやH3K27がトリメチル化されていることが示された。T細胞系列遺伝子に対して、ポリコーム遺伝子複合体の結合は見られなかったことから、Ebf1やpax5といったB細胞への系列決定には不可欠の遺伝子は、T前駆細胞内ではポリコーム遺伝子複合体によって直接的に抑制されていることが示された。さらに胸腺細胞の中でDN3細胞とDP細胞をそれぞれ単離し、同様の解析を行ったところ、ポリコーム遺伝子複合体のPax5やEbf1のプロモーター領域への結合はDN3段階では見られたものの、DP細胞ではほとんど見られなかった。これらの結果から、ポリコーム遺伝子によるB細胞系列遺伝子の抑制はDN段階にのみ見られることであり、DP段階以降はポリコーム遺伝子以外のメカニズムによることも示された。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度は、T/B系列共存細胞転写因子の発現プロファイルやエピゲノム状態の変化を解析した。Cdkn2a-/-; Lck-cre; Ring1A-/-; Ring1B fl/flマウスを用いた解析により、T前駆細胞において、Pax5やEbf1といったB細胞系列遺伝子は抑制されているが、その抑制はB細胞系列遺伝子のプロモーター領域に対してポリコーム遺伝子複合体が結合し、H3K27がトリメチル化されることによって達成されていることが示された。しかし、DN細胞とDP細胞をそれぞれ単離し、同様の解析を行った結果から、T前駆細胞内でのポリコーム複合体によるB細胞系列遺伝子抑制は、DN段階に特異的なものであり、DP段階には異なる抑制機構が働いているという知見も得られた。さらに、DN段階でのB細胞系列遺伝子の発現が細胞の運命に与える影響を調べるために、Cdkn2a-/-; Lck-cre; Ring1A-/-; Ring1B fl/flマウスの胸腺DP細胞を免疫不全マウスに移入することでin vivoでの検証を行った。その結果、移入したDP細胞はCD4SPもしくはCD8SP細胞に分化することなく、B細胞に分化していることが確認された。この結果は、DN段階においてポリコーム複合体がB細胞系列遺伝子を抑制することが、その後の細胞の運命決定に重要であることを示している。これらの結果から、研究は概ね順調に進捗していると思われた。
平成29年度以降はin vitroにおいてもin vivoと同様の減少が見られるかどうかを、Cdkn2a-/-; ERT2-cre; Ring1A-/-; Ring1B fl/flマウスを用いることで検証する。このマウスの骨髄もしくは胎仔肝臓の多能前駆細胞からin vitroにおいてT細胞へと分化させる。その途中の適切な段階でタモキシフェンを添加することでポリコーム遺伝子を欠損させ、T/B系列共存細胞が現れるかを検証する。この時に、固相化DLL4を用い、IL-7濃度を高濃度に保つことでDN2段階の途中で分化を停止させ、その後IL-7濃度を下げることで、同調的に分化を再開始させることで経時的な転写因子発現変化およびエピゲノム状態の変化を解析する。それらの結果を生理的な条件下での結果と比較し、系列の頑健性に関与すると思われる遺伝子の同定を行う。さらに特定された遺伝子の欠失や強制発現などにより、系列の頑健性の破綻が回避されうるかどうかを検証する。
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