研究課題/領域番号 |
16K09882
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研究機関 | 兵庫医科大学 |
研究代表者 |
小川 啓恭 兵庫医科大学, 医学部, 教授 (80194447)
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研究分担者 |
岡田 昌也 兵庫医科大学, 医学部, 講師 (00309452)
海田 勝仁 兵庫医科大学, 医学部, 助教 (00441254)
井上 貴之 兵庫医科大学, 医学部, その他 (20441256)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | HLA半合致移植 / サイトカイン / GVHD / GVL / 白血病 |
研究実績の概要 |
同種造血幹細胞移植における最終目標は、GVHDを伴わないGVL効果を実現することである。一方、治療強度を減量した前処置とsteroidを併用したHLA半合致移植は、私共が独自に開発してきた移植法で、非寛解期症例においても、高いGVL効果が期待できることを報告してきた。しかし、その詳細な機序は不明である。本研究の目的は、このHLA半合致移植で得られる高いGVL効果発現の機序を解明することである。そのため、私共は、独自にMHC半合致移植のマウスモデル(BDF1(H-2b/d)からB6C3F1 (H-2b/k)へ移植)を構築した。このモデルは、ヒトのHLA半合致移植と同様に、GVH方向/HVG方向の双方向にHLA半合致であり、従来のマウスモデルにはなかった新しいものである。さらに、GVL効果を観察できるように、レシピエントの造血幹細胞に、キメラ遺伝子を導入することによって、移植可能なレシピエント由来の白血病細胞を樹立した。この白血病細胞株を移植時に、レシピエントマウスに投与することによって、GVL効果と同時にGVHDも観察可能になる。そして、移植前後のcytokine stormを制御する目的で、dexamethasoneの腹腔内投与が、GVLおよびGVHDに与える影響を解析した。 その結果、dexamethasoneの投与は、GVL効果に影響を与えることなく、GVHDを有意に抑制することが判った。この系を用いて、腸間膜リンパ節、脾臓、骨髄の3つのリンパ造血組織における、免疫細胞の動態を解析した。GVHDの場である腸間膜リンパ節におけるドナーT細胞の増殖は、dexamethasoneにより、極めて強く抑制されたのに対して、GVLの場である骨髄において、dexamethasoneはほとんど影響をもたらさなかった。現在、その機序を詳細に解析している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
MHC半合致移植のマウスモデル、BDF1(H-2b/d)→B6C3F1(H-2b/k)を独自に樹立した。この系において、前処置として全身放射線照射(TBI)を13Gy照射した後、ドナーからT細胞を除去した骨髄細胞 5 x 106とT細胞源としての脾細胞 2 x 107を移植し、day 1に白血病細胞を1 x 106輸注した。このようにすると、大半のレシピエントマウスは、GVHDため死亡するが、白血病死するマウスはいなかった。この系に、移植前後に腹腔内にdexamethasoneを投与すると、GVHD死亡は有意に、かつ顕著に抑制されたが、白血病死は有意に増加することはなかった。以上から、移植前後のcytokine stormの抑制が、GVL効果を維持しつつ、GVHDを抑制できる系が完成した。 次に、腸管GVHDをもたらすドナーT細胞の活性化は、腸間膜リンパ節で起こるので、腸間膜リンパ節におけるドナーT細胞の動態を解析した。その結果、dexamethasoneの投与は、有意にかつ強く、その増殖と活性化を抑制した。これが、臨床的なGVHDの軽減をもたらしたと考えられた。一方、GVLの場は骨髄である。同様に、骨髄でのドナーT細胞の動態を解析した結果、dexamethasoneはその増殖や活性化に影響を与えないことが判った。そのため、GVL効果が維持されたと考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
前述したように、腸間膜リンパ節と骨髄におけるドナーT細胞のdexamethasoneに対する反応性の違いが、GVLをGVHDから解離させた、即ち、炎症性cytokineの産生を抑制することで、GVHDを伴わないGVL効果を実現させたと考えられる。腸間膜リンパ節でのdexamethasoneの効果は、そこに所属する抗原提示細胞の活性化を抑制した可能性があり、今後は、それについて検討したい。 一方、骨髄において、dexamethasoneの影響はほとんどなく、ドナーT細胞が増殖し続けた機序を解析したい。さらに、この増殖し続けたT細胞が十分なGVL効果、即ちCTL活性を有しているか否かについて検討したい。
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