研究実績の概要 |
抗リン脂質抗体症候群(APS)は習慣流産をその主要な病態像として有するが、研究者はAPS患者での検討から、補体活性化がAPS流産の一因であると考え、APS患者を含めた習慣流産患者に高率に補体古典経路第1蛋白(C1q)に対する自己抗体が出現していることを発見した。本研究では抗C1q抗体を投与しマウス流産モデルを作成する。 H28年度はマウスモノクロナル抗C1q抗体であるJL-1をbalb/cマウス, C57BL/6マウスに投与してその効果を確認した。投与量・スケジュールはAPS患者血清をマウスに投与する既存の「APSモデルマウス」を参考にして、500μg/kgを胎盤プラグ確認をday0として、day8,12に尾静脈より投与して、day16に屠殺して流産を評価した。 その結果、JL-1投与群はコントロール抗体投与群に比べ、胎仔数、胎盤重量のいずれも有意に低下し、胎仔吸収率が有意に上昇した。また、補体経路活性化に伴い出現するペプチドであり炎症惹起作用を有する穴フィラトキシンである血中C3a濃度の上昇を認め、胎盤病理においてC1q, C3, C4dの沈着を有意に亢進させた。これらからJL-1は胎盤局所及び全身の補体系活性化を促し、その結果として流産をきたすと考えられた。また、抗C5a受容体抗体の投与は流産を回避させ、胎仔重量の回復も認められ、抗補体治療が効果的に流産を抑制することが示唆された。
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