研究課題/領域番号 |
16K09905
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
吉本 桂子 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 研究員 (20383292)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | シェーグレン症候群 / 単球 / B細胞 / イオンチャンネル / BAFF / IL-6 / IgG |
研究実績の概要 |
本研究は指定難病であるシェーグレン症候群(SS)の今本治療薬の開発を目指して、病態形成に関与する分子を同定し、それらを日標的とした治療薬の開発の可能性を検討することを目的とする。SSでは唾液腺や涙腺など外分泌腺の障害による慢性唾液腺炎や乾燥性角結膜炎、関節炎、慢性甲状腺炎、間質性肺炎、原発性胆汁性肝硬変症、非ホジキンリンパ腫など多彩な症状が出現する。これらの病態形成に関する分子メカニズムは不明であるが、患者でのB細胞の活性化やそれに強く関わる他の免疫担当細胞(濾胞性T細胞、単球)の異常が報告されており、このような免疫機構の異常を制御できれば新規治療法の開発につながる可能性がある。 我々はこれまでの研究で、SS患者の末梢血単球でB細胞活性化因子によるIL-6産生亢進があり、これがB細胞からの抗体産生に影響を与えていることを見出した。これらの結果から単球からのBAFFによるIL-6産生を抑制する薬剤がSS治療薬となりうると考え、ヒト単球系細胞株THP-1を用いて既承認薬ライブラリーの中からドラッグ・リポジショニングによって探索した。その結果、ある種のイオンチャンネル阻害機能を有する化合物にTHP-1細胞からのBAFFによるIL-6産生抑制作用が認められることが明らかとなった。これらのイオンチャンネル阻害剤は、患者末梢血単球からのBAFFによるIL-6産生促進作用および末梢血単球とB細胞の共培養系でのIgG産生促進作用に対して強い抑制作用を示すことを見出した。さらにSS患者単球でのイオンチャンネル発現を健常人単球と比較検討した結果、ある種のイオンチャンネルの発現が高く、BAFF刺激によりさらに発現亢進が認められることが明らかとなった。これらの結果よりBAFFシグナルとイオンチャンネルを介したシグナルのクロストークが推測され、治療の標的として有望であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々が見出したSS患者末梢血単球でのBAFFによるIL-6産生亢進は患者B細胞からのIgG産生を促進に関与し、患者において頻度高く観察される高IgG血症や自己抗体産生亢進に寄与していると考えられる。この機序を阻害する化合物はSS治療薬として開発の可能性があり、詳細な作用機作を検討することは新たな治療標的の同定と治療薬開発の具体的な工程の企画に極めて重要である。 平成28年度ではSS患者単球でのBAFFによるIL-6産生促進を抑制する化合物として医薬品リポシジョニングにより数種のイオンチャンネル阻害剤を見出し、これらの化合物がB細胞からのBAFF刺激を受けた単球が寄与するIgG産生に対して抑制作用を有することを明らかとした。さらに患者末梢血単球では健常人単球と比較してこのイオンチャンネルの発現が亢進しており、BAFF刺激を受けることでさらに発現が促進することを見出した。これらの結果はBAFFシグナルとイオンチャンネルからのシグナルのクロストークを示唆するものである。今年度見出した化合物について今後の動物モデルなどを用いたin vivoでの有用性、有効性の検証が極めて重要であると考える。以上のことより研究は概ね順調の進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
医薬品リポジショニングより見出したTHP-1からのBAFFによるIL-6産生阻害作用を有するイオンチャンネル阻害化合物について、B細胞からのIgG産生への影響をin vitro、in vivoの評価系を用いて検討する。具体的には健常人およびSS患者末梢血単球とB細胞をBAFF存在下で共培養し、促進されるIgG産生に対する影響を詳細に検討する。その過程において単球およびB細胞でのBAFFシグナル分子の変移とチャンネル下流のぶ分子の活性化の相関を分子生物学的手法を用いて検討する。またSSの病態を反映するモデルマウスを用いて候補化合物の薬効薬理試験を実施する。具体的には涙腺顎下腺への炎症細胞浸潤が認められるMRL/lprマウス、NZBWF1マウス、NODマウスを用いて、候補化合物を投与し、血中抗dsDNA抗体価上昇に対する効果や炎症組織での薬効を分子生物学および免疫組織学的解析を実施し、病態改善効果を検証する。in vitroおよびin vivoでの薬効が認められた化合物については用途特許の出願を目指す。また構造相関を解析し、より薬効の強い化合物の取得を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2016年4月に開催される国際学会での発表が決定していたため、その渡航費用とした。
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次年度使用額の使用計画 |
2016年4月17日から21日までの国際学会(TNF suprefamily 2017)への渡航費用とした。
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