研究課題/領域番号 |
16K09914
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研究機関 | 産業医科大学 |
研究代表者 |
山形 薫 産業医科大学, 医学部, 助教 (80533786)
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研究分担者 |
田中 良哉 産業医科大学, 医学部, 教授 (30248562)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 関節リウマチ / 14-3-3 eta / シトルリン化 / 破骨細胞 / 骨破壊 |
研究実績の概要 |
本来、14-3-3 etaは細胞内に局在するシャペロンタンパク質として機能する。しかし、関節リウマチ(RA)に限り、発症初期では患者の血清と関節液において高濃度に検出される。そのため、RAの早期診断マーカーとなることに加え、RA病態形成を担うと予想されている。そのため、細胞外14-3-3 etaが病態関連細胞の機能を制御する点を解明することは、RA病態機序解明の新たな視点になるだけでなく、治療標的となるかもしれない。 そこで、14-3-3 etaの産生細胞と病態形成への役割について調べた。 まず、14-3-3 etaの産生細胞を特定するためにRA滑膜組織を用い、一連の細胞マーカーと14-3-3 etaの二重染色を行った。CD68陽性マクロファージにおいて14-3-3 etaが高いレベルで発現していた。 つぎに、病態形成における14-3-3 etaの機能を調べるために、RA病態関連細胞を14-3-3 etaで刺激した。14-3-3 etaは1)間葉系幹細胞(MSC) 骨芽細胞分化を制御しないことをアリザリンレッド染色で見出した。2)単球破骨細胞分化に影響を及ぼさないことをTRAP染色で見出した。3)滑膜由来線維芽細胞(FLS)におけるIL-6発現、およびMSCにおけるOsteoprotegerin発現をそれぞれ制御しないことをqPCRで見出した。4)マクロファージにおいてIL-6、TNF-alpha等の炎症性サイトカインの発現を誘導しないことをCBA法で確見出した。 RA患者の関節液ではシトルリン化タンパク質の種類が多く見出されており、14-3-3 etaはシトルリン化を受けることで、RA病態形成を担うかもしれない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1) 14-3-3 etaの産生細胞の特定。ヒト健常人由来末梢血単核球から分化したマクロファージ、単球はbasal levelで14-3-3 etaの高い発現を示した。RA滑膜組織に局在するCD68陽性マクロファージは14-3-3 etaの強染色像を示した。CD4陽性T細胞において14-3-3 eta低染色であった。さらにマクロファージ細胞膜が壊れ、DNAが細胞外に放出される細胞が一部観察された。細胞死を介した14-3-3 etaの細胞外放出が、RA患者でみられる14-3-3 etaの高濃度をどの程度反映しているか不明である。 2) 14-3-3 etaによるRA病態形成の解明。i) MSCを骨芽細胞分化誘導培地で培養するとアリザリンレッド染色陽性となるが、14-3-3 etaで刺激しても、染色陽性となる期間は変動することはなかった。ii) 単球をM-CSF/RANKLで共刺激後培養するとTRAP染色陽性となるが、14-3-3 etaの濃度に関係なく、TRAP染色陽性細胞数は変わらなかった。iii)FLSはIL-6を発現するが、14-3-3 eta刺激時間に関係なくIL-6発現は変化しないことをqPCRで見出した。iv)無刺激に比して14-3-3 eta 刺激MSCにおいてTGF-beta1およびOsteoprotegerin発現はそれぞれ変動しないことをqPCR法で見出した。v)マクロファージを14-3-3 etaで刺激したが、TNF-alpha、IL-6等の炎症性サイトカインは誘導されないことをCBA法で見出した。 しかしながら、依然としてRA病態形成における14-3-3 eta の役割は不明である。
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今後の研究の推進方策 |
1) 14-3-3 etaのソースはマクロファージであると特定したので、次は放出機構を調べる。TNF-alpha刺激でネクロプトーシス形式の細胞死が報告されている。重要なことにRA関節は高濃度のTNF-alphaに暴露されており、この細胞死が14-3-3 etaを細胞外に放出する可能性が考えられるので、興味深いメカニズムが存在するかもしれない。 2) 破骨細胞内のvimentinはシトルリン化修飾を受けると細胞膜に移行し、抗シトルリン化ペプチド抗体(ACPA)刺激により破骨細胞を活性化することが知られている。興味深いことにRAの関節液にはシトルリン化酵素PADIが豊富に存在する。そこで、14-3-3 etaを切り口にして、関節液におけるシトルリン化14-3-3 eta (cit-14-3-3 eta)の検出、および病態形成への関与を検討する。 i) 試験管内で14-3-3 etaとPADIカクテルを反応後、ウェスタンブロット(WB)法により、14-3-3 etaがシトルリン化を受ける可能性を調べる。ii) RA血清を用い、病的環境下で14-3-3 etaがシトルリン化を受けている可能性について免疫沈降(IP)-WBで調べる。iii)単球を破骨細胞分化誘導培地で培養する際、cit-14-3-3 eta単独、ACPA単独、またはcit-14-3-3 eta+ACPAで刺激する。その後、破骨細胞分化の指標であるTRAP染色を行う。RA病態形成におけるcit-14-3-3 etaの新たな役割について考察する。
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