研究課題/領域番号 |
16K09916
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研究機関 | 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 |
研究代表者 |
藤本 穣 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所, 医薬基盤研究所 免疫シグナルプロジェクト, 客員研究員 (00379190)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 膠原病学 / ループス腎炎 / バイオマーカー / 尿検査 |
研究実績の概要 |
LRGは申請者らが関節リウマチ患者血清より同定した急性期蛋白の一種で、関節リウマチや炎症性腸疾患等の疾患活動性マーカーとして診断薬開発を進めている。LRGはループス腎炎患者の尿中にも増加が認められ、尿バイオマーカーとしても臨床応用が期待できる。本研究では、尿中LRG上昇の臨床的意義について解明することを目標とし、ヒト患者検体の解析のほか、ループス腎炎モデルであるNZBWF1マウスを用いて、ヒトでは困難な基礎的研究を行う。 本研究では、腎生検で確認された活動性病変を有するループス腎炎患者が解析対象として重要であり、H28年度から尿検体採取および臨床情報の収集を再開した。まだ症例数が限られるが、今後も継続して症例の集積を行う。また、尿LRGの産生機序や病態形成との関わりを解明するため、NZBWF1マウスの解析を行った。同マウスのメスは加齢とともに抗dsDNA抗体産生等の免疫異常を呈し、生後約半年で尿蛋白等の腎炎症状を来たす。H28年度においては、このモデルの尿、血清、腎臓を経時的にサンプリングし、尿中および血清中LRGの値の推移、および、腎臓における炎症性サイトカインとLRGの発現の推移を検討し、腎の組織学的検討を行った。この結果、本モデルマウスにおいては、生後半年前後において、腎臓IL-1β mRNAの発現の有意な上昇とともに、LRG mRNAも上昇することが明らかになった。さらに、尿蛋白の上昇に先んじて尿中LRGが検出できる傾向が認められた。免疫組織化学染色においてLRGは、発病マウスの腎尿細管に発現が認められるため、同マウスより腎尿細管上皮細胞を採取し、炎症性サイトカインにて刺激したところ、IL-1β刺激で特に強いLRG産生誘導が認められた。以上から尿中LRGは、腎における炎症の出現、特にIL-1β産生を反映し、ループス腎炎発病のマーカーになる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究においては、まずループス腎炎患者の検体と臨床情報の収集を進めつつ、臨床検体では困難な基礎的研究をループスモデルマウス(NZBWF1)で行っていく計画である。 初年度の計画であった患者検体の新たな収集は、予定通りに開始しており現在症例を集積中である。腎生検にて評価を行う症例が特に重要であるため、インフォームドコンセントのもとでサンプリングを進めていく。また、モデルマウスであるNZBWF1については、李(大阪大学)とともに経時的な検体のサンプリングが終了し、腎組織での炎症性サイトカインおよびLRGのmRNA発現のプロファイリングを行うことができた。この結果、生後半年頃から腎でのサイトカイン産生が上昇し、LRGにも同様の上昇がみられることが明らかになった。中でも腎でのLRGの発現誘導にあたっては、サイトカインIL-1βの有意な増加とその重要性を示唆する結果が得られた。以前のNZBWF1マウス腎の免疫組織化学染色から、LRG発現が尿細管上皮で強く増強することが分かっている。そこで、マウス尿細管上皮の初代培養細胞をIL-1βで刺激したところ、LRG発現が増強することが分かった。以上から、ループス腎炎の進行に伴い、炎症性サイトカインIL-1βの発現が上昇し、尿細管上皮でLRGが産生され、尿中に排泄されることが考えられた。また、ISH法によりマウス腎におけるLRG mRNAの検出は今のところ評価できる結果が得られていない。この点については、市販プローブによる検討を進めていく。この点ではやや遅れがみられるが、全体としては当初に計画した研究がほぼ予定通りに進行中であり、概ね順調に進展したと考える。
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今後の研究の推進方策 |
SLEは希少疾患であり、腎生検によりループス腎炎との診断を受けた患者はさらにその一部であるため、症例を集積させる努力が必要と考える。研究代表者が現在所属する高知大学や他の施設においても研究協力が得られるかどうか、はたらきかけを行うつもりである。以前の経験から、血清LRG測定と比較して、尿LRG測定には困難が伴うことが分かってきている。尿中ヒトLRG測定系については、現状のELISAシステムで対応可能と考えているが、確実な測定を目標に、いくつかの市販ELISAキットと研究グループ内で開発したELISAシステムの比較検討を行う準備を進めている。尿中マウスLRG測定系については現在ウェスタンブロットでの解析が中心であり、定量が難しい状況である。今後検討していきたい。 NZBWF1マウスモデルにおいては、IL-1βがLRG産生の鍵となるサイトカインであるという結果が得られている。しかしながら少なくともある種の細胞株においては、LRGの産生誘導がIL-6、IL-22やTNFαなど他のサイトカインによっても認められている。IL-1βの重要性についてさらに検証を行うため、マウスへのIL-1Ra投与によるIL-1阻害実験を進めていく予定である。また、これまでのところ、尿中LRGは、腎における炎症の出現を反映することが示唆されている。尿中LRGがループス腎炎の発病や増悪の早期マーカーと言えるか否か、H28年度に引き続いてマウスモデルを元にデータの収集と解析を進める。
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