LRGは申請者らのグループが血清炎症マーカーとして新たに同定した血清糖タンパク質であり、臨床検査マーカーとして実用化が進んでいる。申請者らのグループでは、LRGがヒトループス腎炎などの腎障害の際に尿中にも分泌され、尿バイオマーカーとしても臨床応用が期待できることを見出した。本研究において、マウスのループス腎炎モデルおよびアルブミン負荷尿細管障害モデルを検討した結果、過剰なアルブミン再吸収により傷害された尿細管上皮においてLRGが高発現していたことから、LRGは尿細管障害を反映して尿中に増加することが示唆された。実際、マウス腎臓から尿細管上皮細胞を採取し、in vitroでアルブミン負荷を行ったところ、上皮細胞からのIL-1β産生を介してLRGの発現が誘導されるというデータが得られた。また、ヒトにおいて造影剤投与後の急性腎障害患者の尿でもLRGが上昇していたことから、LRGはループス腎炎のみのマーカーではなく、より広範な腎疾患において尿細管の障害を反映するマーカーであると考えられた。 最近の研究から、LRGの病態生理学的機能にも注目が集まっている。これまでにLRGは、TGFβもしくはその受容体と相互作用し、TGFβシグナルを増強することが報告されている。申請者らは腎障害におけるLRGの役割を検討するため、LRG欠損マウスと野生型マウスに対し、アルブミン負荷により尿細管障害を誘発した。その結果、腎臓でのIL-1βの発現量や蛋白尿の程度がLRG欠損マウスでやや軽減していた。しかしながら今回の検討の範囲では、野生型マウスとの差が統計学的に有意とはいえず、アルブミン負荷尿細管障害モデルにおけるLRGの重要性については、さらに詳細に検討を行う必要がある。
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