研究課題/領域番号 |
16K09918
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岡村 僚久 東京大学, 医学部附属病院, 特任助教 (10528996)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 制御性T細胞 / 自己抗体 / 全身性エリテマトーデス / LAG3 / TGF-β |
研究実績の概要 |
代表的な炎症性自己免疫疾患である膠原病に共通しているのは、自己免疫寛容の破綻であり、自己反応性B細胞による自己成分に対する抗体産生を特徴とする。免疫抑制機構の中心的サイトカインはTGF-βとIL-10の2つであるが、共に免疫に対して促進性にも抑制性にも働くという側面があり、臨床応用への大きなハードルとなっている。本課題において申請者は、TGF-βとIL-10のcombinationによる自己抗体制御機構を解明することを目的としている。平成28年度は、Toll-like receptor(TLR)刺激においてTGF-β、IL-10単独では抗体産生は促進されるが、両サイトカインの共存により抗体産生は完全に抑制されることを示し、解糖系や酸化的リン酸化、アミノ酸代謝など代謝パスウェイに影響のある遺伝子群の抑制および、哺乳類ラパマイシン標的タンパク質(mTOR)シグナル伝達系が、TGF-βとIL-10を共添加したLPS刺激B細胞で特異的に抑制されていることを明らかにした。H29年度は、pCAGGS-TGFb1, pCAGGS-TGFb3, pCAGGS-IL10プラスミドベクターを作成し、in vivo実験系における機能解析を中心に行った。その結果、NP-KLH/CFA免疫下においては、in vitroの検討結果と同じく、TGF-βとIL-10の協調的な液性免疫制御能が示された。一方、TGF-βおよびIL-10ブロッキング抗体の投与は抗体産生を増強した。さらにTLR7 agonistであるイミキモドの皮膚への塗布によるSLEモデルマウスにおいても、TGF-βとIL-10は協調して自己抗体産生を著しく抑制した。これらの検討により、ヒト自己免疫疾患に対するサイトカインコンビネーションセラピーの展開の有用性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、TGF-βおよびIL-10の共存による液性免疫免疫制御につき生体内での検証を主眼に置いた。上述の如く、生体内においても自然免疫系刺激条件においては、TGF-βおよびIL-10が共存することが必要であることが示され、SLEモデルマウスにおける自己抗体産生制御機構にも両サイトカインによるシナジー効果が重要であることが明らかとなった。さらに、申請者はTGF-beta3 floxedマウスを独自に作出し、CD4 Creマウスとの交配により、T細胞特異的TGF-β3コンディショナルノックアウトマウスの作成まで完了した。これらの検討により、生体内におけるTGF-βおよびIL-10の機能および治療効果を明らかとし、新たなマウス実験系の構築も行ったことで、当初の目標を達成した。
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今後の研究の推進方策 |
H30年度は、T細胞特異的なTGF-β3欠損よる影響の検証をin vivo実験系において進めると同時に、ヒト末梢血B細胞を用いた検討も行う。TGF-β3は組織も含め複数の細胞より産生されることから、in vivoにおける免疫担当細胞特異的なTGF-β3機能の検証は困難な状況であった。上述の如く申請者は、T細胞特異的TGF-β3コンディショナルノックアウトマウスの作成に成功しており、H30年度は同マウスの表現型を経時的に追うことで、生体内におけるサイトカインシナジー効果をTGF-β3産生細胞という観点から検証を進める。具体的には、濾胞T細胞、濾胞B細胞のフローサイトメトリー解析を非免疫下、免疫下で検討すると同時に、各種細胞サブセットを分取しその遺伝子発現プロファイルの確認まで行う。さらに、SLEとの関連を明確とするため、イミキモド塗布を含めたループスマウスモデルの検討も行う。これまでの解析によりマウスにおいて抑制性サイトカインによるシナジー効果とそのメカニズムを明らかとしてきたが、ヒト末梢血B細胞においても同様の作用および抑制機序が存在するかを検証する必要もある。最終年度は、上述マウスの検討と並行して、ヒトB細胞を用いた検討も行うことで、今後の臨床応用の基盤となるデータを得ることを目指す。
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