研究課題/領域番号 |
16K09919
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
川畑 仁人 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 准教授 (70334406)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | T細胞 / 胸腺 / 免疫学的寛容 |
研究実績の概要 |
本研究は、我々がマウスモデルで明らかにした新たな中枢性T細胞トレランス機序に基づき胸腺で誕生するCD200+CD4+T細胞のヒトにおける証明と、ヒト膠原病における動態と機能の解析を行うことを目的としている。平成28年度は、ヒト健常者における本細胞群の存在の確認をフローサイトメトリーで行い、同定出来た場合ソーティングを行い、遺伝子発現を確認することを計画した。 まず、ヒト健常者末梢血を用いて、マウス胸腺や末梢で本細胞群同定のために使用した細胞表面分子や転写因子の染色を行った。 細胞表面分子としてCD4、CXCR5、CD200、PD-1を、転写因子としてFoxp3、Heliosを選択した。その結果、CXCR5-CD200+CD4+T細胞を同定することができた。更に、この細胞群は、マウスと同様に、Foxp3-Helios+であることもことも確認できた。 末梢血のFoxp3-CD4+T細胞の中で、CXCR5-CD200+細胞、PD-1+CD200+細胞、Helios+CD200+細胞は、各1.4%、2.1%、1.1%を占めていた。 次に、フローサイトメトリーでヒトでも同定出来たCXCR5-CD200+CD4+T細胞をソーティングし、その遺伝子発現を検討した。それにより、マウスで同定した細胞群と同様の細胞群かを検討するためである。ソーティングした細胞からmRNAを抽出し、cDNAを作成した後、マウスで明らかにした本細胞群を特徴付ける分子のPCRを行った。ヒトにおいても、IL-21の遺伝子発現を確認できた。またこの細胞群では、Foxp3の遺伝子発現は低かった。 以上のことから、ヒト健常者においても、マウスにおける新規中枢性T細胞トレランスにより胸腺から誕生する、IL-21産生能を有するCXCR5-CD200+CD4+T細胞と同様の細胞が、末梢血に存在することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は、ヒト健常者において、マウスで同定したIL-21産生CXCR5-CD200+CD4+T細胞と同様の細胞群の存在を、フローサイトメトリー、遺伝子発現、機能解析の点から、明らかにすることを目的とした。本年度検討できたのは、フローサイトメトリーおよび遺伝子発現であり、機能解析に関しては基礎検討の段階であった。ただし、機能解析で最も重要なIL-21産生能は、mRNAレベルでは確認することができたことから、平成28年度の目標であったヒトにおける本細胞群の同定に関しては、概ね達成できたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
ヒト健常者において、IL-21産生CXCR5-CD200+CD4+T細胞を確認できたことから、実際のヒト膠原病における動態を解析することを今後の方針としたい。2017年2月Natureに関節リウマチにおいて、同様の細胞群の増加が報告され(Nature. 2017;542(7639):110-114.) 、この結果は本研究の方向性が正しいことを示している。更に我々は、この細胞群の分化過程やマウスにおけるカウンターパートを把握しており、疾患における同定や、マウスモデルを用いた本細胞群を標的とする治療応用に際して、優位な立場にいると考えている。 実際の解析を行う膠原病としては、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、皮膚筋炎・多発性筋炎を想定している。いずれも、自己抗体が産生される疾患であることや、以前にサブセットとしての認識や機能解析はないがCD200+CD4+T細胞が増加しているとする少数の報告があることから、これらの膠原病を対象にすることは妥当と考える。これらの細胞の増加や機能亢進により、自己反応性B細胞が活性化し、自己抗体を初めとする自己免疫病態にいたる病態を想定している。 本年度は疾患における本細胞群の動態解析だが、次年度以降は、自己免疫疾患モデルマウスを用いて、IL-21を標的とする治療もしくは本細胞群を標的とする治療を試み、ヒト疾患治療への応用の礎を築くことを目標としたい。関節炎マウスモデルやC蛋白誘導筋炎マウスモデルを用いることを考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度の計画では、ヒト健常者末梢血中のCXCR5-CD200+CD4+T細胞の存在を明らかにする研究として、フローサイトメトリー、遺伝子発現解析、機能解析を予定していた。フローサイトメトリーおよび遺伝子発現解析は終了したが、機能解析では、ヒトT細胞およびB細胞の刺激培養系・共培養系の樹立が必要となり、その基礎検討の段階で平成28年度が終了した。当初より、培養系の樹立に時間を要したことと、研究者の異動がきまったことが、全予定を遂行できなかった主原因である。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度施行出来なかった機能解析を平成29年度に組み込むことを考えている。従って、当初の予定どおりのヒト膠原病におけるCXCR5-CD200+CD4+T細胞の動態解析を行うとともに、平成28年度行った基礎検討を土台とする本細胞群の機能解析を再度予定する。具体的には、本細胞群の刺激を行い産生されるサイトカイン、特にIL-21産生の有無を明らかにする。更に、活性化した本細胞群とB細胞を共培養し、B細胞の抗体産生およびクラススイッチにつき検討し、B細胞ヘルパー能を明らかにする。
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